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紙の本
一人の著者による執筆に意味がある、戦前日本公開洋画作品辞典
2010/01/28 22:20
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:本を読むひと - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズ別巻「戦前篇」としての本書は、戦後日本公開作について『スクリーン』連載を中心に雑誌掲載の批評・短文を集めた他の『ぼくの採点表』とは性格を異にしている。
当初は戦前について、もっと著者の映画評が集まると考えていたようだが、編者によれば、わずか132本しか収集できなかった。そのため900本あまりストーリー紹介を中心に作品評が書き加えられたのが本書であり、結果的に当時の批評であるがゆえの歴史資料的価値は薄くなった。
だが元々、このシリーズが一般的な映画ファンの作品辞典的な側面をもっていたため、かえって分かりやすいかたちの戦前作の包括的な紹介本となったと言える。
編者は《ビデオを見て書いていたのでは何年かかるかわからない》ため、『キネマ旬報』等の作品紹介欄などベースにして書いてもらったようだが、当然、記憶の彼方のあいまいさが残るとしても、新たに映画を見てしまうことによる基準の誤差のようなものは、本書には少ない。
ここで求められているのは戦前映画の「研究」ではなく、利便性に重きがおかれた網羅的な紹介と分かりやすい価値づけである。
たとえば複数の映画研究者が努力すれば、かなりの本数を含む戦前映画作品辞典は可能かもしれない。だがそうした本から、ごっそり抜け落ちてしまいそうな映画がたくさんあるがゆえに、本書は貴重なのだと思う。
また複数の著者の執筆になると、「採点」の意味が弱まる。本書は一人の著者が1128本もの戦前映画を批評・紹介・採点しているところが凄いのだ。
映画が文学と異なる一つに、過去のある時期の作品自体が失われてしまったことが挙げられる。そのため、すでにフィルムが失われた作品を見た・見ている、ということ自体に特殊な価値が生ずる。本書で項目となっている作品のなかに、現在ではフィルムが存在しないものがあるのかどうか詳しくは知らない。だが日本で現在、簡単に見ることができない映画が、このなかに相当ありそうだ。本書発行時点でのビデオの有無は、個々の紹介の最後にVとして記載されている。
本書を『ぼくの採点表/1940、50年代』に続けて読み出したのは、キング・ヴィダー作品がどう評価・紹介されているかを知ろうとしてだが、著者は相対的に戦前のヴィダー監督作に高い評価と点数を与えている。また1930年代のヴィダー作品についてはほとんど漏れがない。同年代のラオール・ウォルシュ作品を調べたら、本数が多いせいもあるが取り上げているのは半分に満たなかった。
採点といえば、世界中の映画ファンによるウェブ投票の集計で決まるIMDbにおけるヴィダー全作品のランクでは、『ビッグ・パレード』(25)、『活動役者』(28)、『The Patsy』(28)、『オズの魔法使』(39・部分監督作でクレジットはなし)、『剣侠時代』(26)がベスト5だが、サイレント時代の『剣侠時代』は本書に紹介がない。
だがYouTubeに、『剣侠時代』の素晴らしいシーンが紹介されている。『ビッグ・パレード』にも主演したジョン・ギルバートと、この当時の監督夫人エリナー・ボードマンがフランスの貴族に扮し、柳の葉がたれる川面を進む小船のなかでラヴ・シーンを演じるが、ウィリアム・ダニエルズの撮影が今でも驚くほど美しいと言うしかない。
またIMDbでも評価が高い『群衆』(28)は当時、日本では公開されていないが(そのため本書には収録されていない)、現在DVDで見ることができる。この映画はゴダールの『映画史』にも登場した。
本書は個別の映画監督について、ある程度調べようとすれば、資料として完全とは言えない側面がある。だが、キング・ヴィダーの日本戦前公開作が十数本、当時それらを見た人の目を通して語られているなどというのは、ちょっとないことだろう。
とくに1924年(著者が14歳のときであり、本書のヴィダー作品では最も古い)公開の『君が名呼べば』評では、その映画を見た古い映画館にも懐かしげに言及し、またこの作品以前の『涙の船歌』にふれているのが興味深い。
残念なのは、『涙の船歌』評が本書にないことだが、『淀川長治映画塾』の「キング・ヴィダーのセンチメンタリズム」では、初期のその映画にふれていた。製作1920年、日本公開21年の映画である。
本書をパラパラとめくっているうちに、あることに気づいた。「ア」から「ソ」まで、つまりサ行までの映画だけで約5分の3近い分量がある。60年代、70年代の『ぼくの採点表』では約半分であり、40・50年代の本ではそれよりは多いが、本書ほどではない。
その理由は、「ア」の映画から書き始め、編集作業を進めたせいではないだろうか。後半に至って、やや尻切れトンボ的になったのではと推理する。この推理が正しければ、作品選択がやや片寄ったことになり、それは本書の見過ごしえない欠点となるだろう。
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