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紙の本
名人の引き際
2003/03/24 12:52
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投稿者:松井高志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「名人横綱」(といっても私は日本相撲協会の理事長時代しか存じ上げない)栃錦清隆・のちの春日野親方の半生記(自伝)。当初は中央公論社(現在新社)から刊行された。内容から推測して、引退直後の栃錦へのインタビューを自伝に起こしたものであろうと思われる。
現在の力士はけっこうメディアやファンに向かって気さくに話すが、20年前くらいまでは、勝利力士インタビューなどでも、お相撲さんは口の重いものだと決まっていて(若い頃の安芸乃島関が異様に無口でしたよね)、破った相手を慮ってか、浮かれまいと自分を戒めてか、喜怒哀楽を表に出さず、また、家族も後援会も優勝したからって、軽々しくテレビなんかに出てこないで、いつもごくごく控えめなもので、お客も含めて、相撲というもの全体に美しい慎みというものがあったような気がする。私がそういうふうに観ていた時代さえ、大鵬・柏戸のころであって、栃錦・若乃花の時代はさらにその前。そのころの相撲は大衆娯楽の王様であったと想像できる。
その時代の横綱の、入門から引退に至る回想記であるから、内容が全体に熱を帯びており、またいかにもさっぱりと男らしい語り口で、自伝にありがちなだらだらした自慢話になっていないところが、担当編集の凄腕を想像させる。おそらく、オフレコになった話の中にはもっときわどく、面白い話もあったに違いないが、それを語らないところがまた「栃錦らしい」のであろう、と想像される。
引退を決意するところも実にあっさりと書かれているが、しかし行間を読めば、随分悩んだのではないだろうか、と思える。彼の師匠・横綱栃木山は、優勝した場所のあと、「衰えたとは思わないが、衰えてからやめるのは不本意だ。散り際が大切だから」といって引退したそうです(頭髪が薄くなり、髷が結えなくなったから、という説もある)。ちなみに栃錦はキャリア21年で引退している。
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