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ポオの墓近くの沼のほとりに建つアシヤ邸の爆破事件で死亡したアシヤ兄妹。さらに、その近くの小屋で見つかった事件関係者二人の遺体。
ポオの著作『アッシャー家の崩壊』『ベレニス』『黒猫』に基づく連続見立て殺人で、探偵役は、事件記述者である警察官の友人の娘の更科丹希(ニッキ)。ニッキの探偵手法は、人のつながりや動機よりも、物証に重点を置いたデュパン流のもの。
爆破予告電話や、妹のダイイングメッセージ『ユーラルーム』、ポオの未発表手紙の行方、一時失踪した元使用人夫妻、失踪したその娘と恋人の行方、殺された仲買人の女の足取り等、複雑な要因が絡み合っていて、事件の構図はかなりややこしい。
ニッキはポオ研究家の教授の話を聴くことで、真相にたどり着いているが、正直必然的で唯一無二の真相とは言い難く、作品中で示されているデータだけで読者が真相を推理することは難しいとは感じる。
小屋の窓ガラスが壊されていたこと、ドアの錠が壊されていたこと、色々な場所の指紋が消されていたことなどから紡ぎだされるニッキの推理は鋭い。その推理から導き出される棺の移動に関する真相は、ポオの某作品の真相と密接な関わりがあり、なおかつ意表を突くものであり、とても面白く、感心した。
登場人物の間で交わされる会話は、アメリカ人らしいユーモアにあふれていて、読みやすい作品。
エピローグでは、作中に登場するポオ研究家の教授による『アッシャー家の崩壊』の解釈が示されていて、こちらも興味深い内容だ。
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東京創元社の2019年復刊書目。
元は『新本格』の第一世代がデビューする少し前に刊行された……と、考えると、時代的に、こういう正統派の『本格ミステリ』が刊行の機会を得られたのは珍しいのでは。
流石にこれだけ時間が経っていると、登場人物の口調や風俗に古さは否めないが、面白かった。
創元推理文庫からは他にも幾つか出ていたようだが、現在ではどれも入手困難のようだ。これをきっかけに他の本にも増刷がかかるといいな。
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本日の読書会覚書。
今月は課題書以外ミステリに手を出していなくて、しかも昨日夕方から課題書を読み始めるわやわやさ…。
もっと、こう、気を引き締めたいと思います。
つい、文字書いたり絵を描いたりするとそっちに比重が掛かりぱなしになってしまうので。
読み始めると乗るんですけれども。
そんな感じで一読しかしてなかったけれど臨んだ読書会でした。
ざっくり感想。
「きみはもう少し人間たちに関心を向けるべきだと思わないかい?人間関係、動機、陰謀、そんなものにさ」と言われた探偵役が
「デュパンは『モルグ街の殺人』でそんなことしなかったわ」って返す。
ココのやりとり、心拍上がるほど好き。
タイトルからの通り、ここで求められているのはホワイダニットではなく、ポオであること。
一貫してポオに捧げられ進む物語という宣言文みたいな返しにギュッと来る。
何故そうしたかではなく、実際の振る舞い、物証から立ち上がる可能性の範囲から理屈で詰めて浮き上がらせた現実を受け入れるというアプローチは、成程モルグ。
被害者がポオに心酔していたこと、それを厭うていた妹さえもその呪縛からは逃れられずに守りたい人を護る為に『ユーラルーム』と口にする。
実行犯は意図がなかったにもかかわらずポオの作品をなぞり、そして真実の糸口はポオの作品の中に。
『ユーラルーム』を最初私も物証と考えアナグラムの可能性を考えたけれど、確かに文中で探偵役が目を見開いたように、それは“詩“として読まねばならず、どこまでもポオの作品を味合わされながら引き摺り回す作品でした。
そういう意味で『だれもがポオを愛していた』というタイトルの解釈をして良いのだろうと思いながら読むエピローグ。
そこで信じられないものを目にして私はのたうつ羽目にwww
エピローグに作中作として乗せられた某教授の『アッシャー家の崩壊』に関するエッセイ。
十数ページにしか満たないエッセイ。
物語は全体で400ページ近くなんですが、その40分の1にもならないこのエッセイの濃密さよ。
そのアッシャー家に関する考察の深さに密度に、この論考を世に出すために逆算して『だれもがポオを愛していた』というミステリが書かれたのではと、私は勇み過ぎかと思いながらも確信していたりします。
むしろ、そうであって欲しいくらいの力強さを持った論考。
凄すぎた…!
そして、ここまで読んだ上で『だれもがポオを愛していた』というタイトルに至るべきだと。
だれよりも愛していたのは、翻弄された登場人物以上に、作者だったんだなぁと。
作者さんの他の作品は寡聞にして未読なのですが、勝手にそう思って胸打たれました。
そしてそして、何よりもう!って思ったのが、��月の課題書が『ポー作品集』だったのですが、その後今月『だれもがポオを愛していた』を選書なさる先輩方の用意周到さがもうすごい。
本当に、選書お任せしてひたすら先輩方のおすすめで引き摺り回して欲しすぎます。
良き先達は、です、うん。
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んーーすごい!
作者の名前も聞いたことがなく、この本自体ミステリ研OBから聞くまで知らなかった。
こんな隠れた?本格があったとは!
正直、ストーリーに盛り上がりはそこまでなく、犯人も意外ではあるものの地味である。犯人が指摘されてからは、特にどんでん返しもなくすんなりと終幕する。
しかし!犯人に辿り着くまでのニッキの推理がクイーンばりにロジカルである。犯人や動機などにあまりスポットを当ててないことからも、そんなものは二の次で、ロジックこそが主役という感じ。
クイーンは有名どころしか読んだことがないが、ニッキの推理を聞いてると、あーークイーンがいると感じた。
また、エピローグのアッシャー家の崩壊の考察がすごすぎる。
幻想小説という仮面の裏に実は人為的な犯罪が潜んでいたなんて。あんなふうに、自分の作品を探偵のような目で読んでる読者がいるなんてポーも嬉しいだろうな。
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実に手の込んだミステリーで、新本格を先取りした時代の先を行きすぎた作品だ。ポオの作品分析も、巻末の有栖川有栖氏の解説も面白い。