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清朝皇帝・乾隆帝に仕えたイエズス会修道士、ジュゼッペ・カスティリオーネが皇帝の無理難題に応えて作り上げた噴水から白骨死体が発見された。
禁裏で見つかった死体は一体誰なのか?
ミステリーのような、そうでないような。
面白いことは面白いんだが、なかなか入り込めず。
西洋建築とか庭園および噴水の作成方法に詳しければもっと楽しめたかも。
犯人探しや動機解明よりは、はるばるポルトガルからやって来たもの布教を許されず、画才だけを愛された西洋人画家の視点に立った清朝帝国を描くことがこの物語の主のような気がする。
どんなにすばらしい作品を描いても皇帝にとって「物珍しい工人」に過ぎないという事実を幾度となく突きつけられる主人公の苦悩や
布教のためにやってきたのに受洗を願う中国人を拒否するアンビバレンツ。
それは保身のためというより私欲に満ちたものであることが後半判明するのだがそれを見越してさまざまな手を打ってくる乾隆帝の底知れなさに慄然とする、というのが本音。
若い公子の精を吸い尽くし栄華を誇る十全老人。
彼の足元に横たわる累々たる死体の上に立つ帝王の孤独は深く、どんな創意工夫を凝らした庭園も辺境からの美女も彼の心を溶かすことはできない。
唯一心がほぐれるのは自らの血を分けた一族から血が流れる時なんだから彼の心は一筋の光明も差し込まない闇に沈んでいるとしか言いようがない。
たびたび挿入されるカスティリオーネが手がけた作品(絵画および庭園のスケッチ)が非常に見事です。
最終章は特に辛辣な言葉が重なり、作者はこの憤りを描きたいがためにカスティリオーネを主人公に据えたんじゃなかろうかと邪推しております。