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紙の本

趣向を凝らした中篇集

2001/09/26 22:04

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 本書は、四つの中篇から成る。
 ダルジールとパスコーの最初の出合いを描くのが「最後の徴集兵」。パスコーは転任してきたその日に、ダルジールと一緒にとんでもない事件に巻き込まれる。
 エドガー・アラン・ポーの詩で彩られ、幽霊館の雰囲気たっぷりなのが「パスコーの幽霊」。出版社に勤めるスイゼンバンクの妻が失踪した。一年経っても見つからず、彼の家には奇妙な電話がかかってくるようになる。パスコーは、夫妻の幼馴染み達に何か関係があるとにらみ、彼ら全員が集まるパーティーに入り込む。古く大きな館で、一人一人に話を聞きながらシャーロックホームズ気分を味わっていると、突然、幽霊が出没する。
 一方「ダルジールの幽霊」は、同じ幽霊でもエロチシズムが濃厚だ。ダルジールとパスコーは成り行きで幽霊退治を引き受け、郊外の大きな館で一晩過ごすことになる。そして、真夜中を過ぎて出てきた幽霊とは…。
 最後の「小さな一歩」では、なんと未来のダルジールとパスコーが描かれる。月で起きた殺人事件を捜査するために、ヨーロッパ連邦司法省のイギリス長官となったパスコーが、引退して痛風で寝たきりになっていたダルジールを引っ張り出して、月へ向かう。
 この作品にはまえがきが付いていて、なぜ未来のエピソードを書いたのかを説明している。これを読んで初めて気づいたのだが、ダルジール警視シリーズの背景の時代はどんどん進んでいるのに、そのわりにはパスコー達は歳をとっていない。パスコーは娘が成長していくので、いくぶん年月を感じさせるが、ダルジールは年齢を重ねている気配がほとんどない。このことを読者から指摘されたことはないそうで、それなのに自らパロディ化して作品を書いてしまうとは、さすがヒルだ。

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