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紙の本
当初の期待以上に、さまざまなことを教えてくれた名著
2004/10/04 14:04
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投稿者:さいとう - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は、当初、本書について、さほど興味も期待も持っておりませんでした。山脇東洋という人物を存じませんでしたし、有名な杉田玄白などによる人体解剖の先駆者であり、その彼らが最も参考にした人物であるということで、はじめて興味を覚えました。そして、本書の内容も、彼の人体解剖の内容や、それに至る道程を述べたものくらいにしか想像しておりませんでした。
ところが、それを読み進めるうちに、ますます夢中になってしまいました。それは、興味深い点が多かったためでも、恐らく著者の表現力に見事に陥ってしまったためでもなかったと思います。実にこの主人公・東洋がいたたまれませんでした。とても他人事として、片付けておけませんでした。
確かに東洋は、すぐれた先覚であり、立派な功績を残しました。しかし、老子にも「禍か、福の倚る所。福か、禍の伏す所。孰かその極を知らん」とありますように、一概に幸福な人生であったと言い切れるかは難しいと感じました。
幸か不幸か、まだ若く立派であった妻と、長男までをも突如失ってしまったことが、皮肉にも、その後の偉業に繋がる命運を強くしております。また時運も、その実現に有利に働いていきました。
彼はこのとき相当な脱力感を覚え、自己の非力に大いに煩悶しました。もし、私が同じ立場であったならば、虚無感が進行し、その後どうなっていったか分かりません。しかし、彼は立ち直りつつ、かえってこれをバネにしていきます。とはいえ、身体は正直であったものとみえ、妾にも走り、後妻の選択には期待も熟考ぶりも見られませんでした。
これらの上に立っての偉業の達成でありましたが、そのことと、亡くなった二人の生命やその当時の生活と比べるならば、迷わず後者を選んだのではないでしょうか。
私も、東洋が果たしたような大きな功績には憧れます。これこそ男子の本懐と感じずにおられません。しかし、空気の有難さが高山に登ってはじめて自覚できるように、普段無自覚のものにこそ、尊い価値があるという点も、安易に見逃すことはできないと感じました。後生の医家やその恩恵を受ける患者は、この点にもより注意を払って、東洋の功績を敬うべきでありましょう。
さらに、東洋を取り囲む師友に、とても羨ましさを感じました。彼の代表作となった著書も、そのたくさんの協力があって達成できたものでした。もちろん、彼の偉大な才徳が、良師良友の縁を生んだともいえます。しかしやはり、彼のすぐれた人格や才能も、その後の偉業も、素晴らしい師友のおかげといって過言ではないと思います。
私はとくに、後藤艮山に、東洋同様うなる点を多々感じました。彼のように本当の意味での達人に近づくほど、滅多なことは言わないのでしょう。いや、言えなくなるのでしょう。ましてや、尊大な態度など構えられなくなるのでしょう。変なてらいや余計な飾りほど邪魔にもなるのでしょう。つまらない理知や理屈ほど嫌気がさしたことでしょう。自身の眼と身体を頼りにしていくしかないとも覚悟したことでしょう。それで人を教え導いていくことこそが、誠であるとも思ったことでしょう。ところがこれらは皆、言うに易く行うに至難ときております。貧民に対する彼の態度も、余程の人格と無欲恬淡ぶりがなければできません。心から頭が下がる思いをしつつ、そういう師を得た東洋を心底羨ましく感じました。
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