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紙の本

イタリア滞在記が読みたいなら、この本をお勧めします。

2003/09/29 01:57

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:アルテミス - この投稿者のレビュー一覧を見る

 イタリア滞在記に分類される本は数多い。
 私もイタリア滞在を考えていた時期があったので、片端から読んだ。滞在するのは活字中毒体質を考えてやめたのだが(イタリア旅行中に何度か書店へ行ったが、観光ガイドぐらいしか判読できないのでさびしかったのだ)今でも時折その手の本を読む。その数は両手足の指の数をはるかに超えているのだが、それらの中で最も楽しかったのがこの本だ。

 出発の日空港で、イタリア行きの飛行機の搭乗案内を聞きながら突然怖気づいて幼なじみに電話をし、「行くの、やめる〜」と泣き出したあたり、ものすごく納得できる。30代に入ってそれまでのキャリアを中断するのは不安であろう。
 ともあれ気を取り直して飛行機に乗ったら乗ったで、降りたとたんにストライキで右往左往することになる。
 こうして始まった滞在中に、著者が日本的思考法にイタリア的思考法をプラスしていく過程が、さまざまなエピソードを積み上げてゆくことで語られていく。中でも、バール(喫茶店)を経営するミーナとその家族との交流は著者にとって宝物のような思い出であろう。

 語られるいくつものエピソード自体も楽しい。が、その他に類書と比べて本書が楽しめる理由のひとつに、類書にありがちなイタリア礼賛および日本批判がほとんどないという事がある。これは、著者が、自分の経験がイタリアのすべてではない事がちゃんとわかっているからだろう。これは著者がジャーナリスト(モータージャーナリスト)であるからだろうか。
 ひところ垂れ流しのように発行された類書は、イタリア人は人生を愉しんでる、日本人みたいに悲観的じゃないと、判で押したように書かれていたものだ(イタリアがアメリカのようじゃないという理由でこき下ろしている、どうしようもない見当違いな本もあったが)。私は、他国のいいところだけを見てきた人間がそれをすべてと思い込んで、だから日本はだめなのだ、式の論法を繰り広げるのは好きではない。
 また、これは明確に著者がジャーナリストだからだろうが、著者は文章の書き方がわかっている。何を当たり前のことをと思うかもしれないが、類書を出している人の中には、人にお金を出して買ってもらう本を書こうというのに、それに必要な文章力のない著者が本当に多いのだ。ある本などは「起承転結」の「転」しかなかった。編集者の責任もあるのだろうが。

 低レベルな本と比較しても本書に失礼なのだが、うっかりそういう本を読んでしまってもうこの手の本は読まない、と思っている人に、ぜひ読んで欲しい一冊である。

 追記。
 読了後、ボローニャへ行く機会があったので、本書に何度も登場するバールへ行ってみた。本書を読んだことを告げると、店中で大喜びしてくれた。このときは、本気で著者がうらやましくなったものだ。

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