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明治以降の日本の哲学者16人を取り上げて、それぞれの思想を解説している。同じく世界思想社から出版された藤田正勝編『日本近代思想を学ぶ人のために』と比べると、取り上げられている哲学者は少ないが、単なる学説の紹介ではなく、それぞれの執筆者による研究論文と呼べるほどの濃い内容になっている。
取り上げられている哲学者は、西田幾多郎・田辺元・和辻哲郎・九鬼周造・三木清・植田寿蔵・西谷啓治・波多野精一の8人である。とくに植田寿蔵の美学思想と波多野精一の宗教哲学については論じられることが少ないので、本書の解説は有益だった。
植田の思想は、第6章の岩城見一「視覚の論理」で論じられている。岩城氏は、植田がK・フィードラーの芸術論や西田幾多郎の『自覚に於ける直観と反省』からの影響を受けながら、視覚芸術の独自性を現象学的解釈学に近い立場から解明する仕事を進めていったことを明らかにしている。
波多野を扱っているのは、第8章の片柳栄一「時と永遠」だ。片柳氏は、他者に対する関係を時間構造に基づいて解明する波多野の宗教哲学の内に、現代のレヴィナスなどの他者論に通じる発想が認められるという興味深い観点を提示している。