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生命の樹 あるカリブの家系の物語 みんなのレビュー
- マリーズ・コンデ (著), 管 啓次郎 (訳)
- 税込価格:3,520円(32pt)
- 出版社:平凡社
- 発行年月:1998.5
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紙の本
世代を超えたカリブのドラマと世界の展望
2007/08/26 07:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:cuba-l - この投稿者のレビュー一覧を見る
四代前の過去から説き起こして時代に翻弄される家族のドラマを経て、現代世界の行く末を展望する大河ドラマである。カリブ版の「大地」(P・バック)にも「ルーツ」(A・ヘイリー)ともなぞらえることができるようなこの作品を簡単に紹介することは難しいが、敢えて本書のキーワードをあげるなら「ポスト植民地」、「混血」、「移住」、だろうか。
本書のあらゆるところで感じられることだが、世界に離散したアフリカ系人種の強い連帯意識をベースにしながら、国境も文化も踏み越えていかずにはおられないエネルギーの奔流が物語をぐいぐいと牽引していくのである。
その物語の中心は、グアドループ島のサトウキビ畑の労働者から身を起こし、パナマへわたって運河の発破手から葬儀屋で財を成した曽祖父の人生から説き始め、商家として成功した祖父、お嬢様として育ちながらフランス本土へ渡って私生児を生んだ母を経て「私」に至る四代にわたる一族とその周囲の人々の人生である。
彼らの直面する様々な人生の局面は、時に惨めな挫折の多いものではあるけれど、善悪を超えた生命力にあふれた骨太のドラマであり、エネルギーをもたらしこそすれ、決して下向きな気分をもたらすわけではない。
これはきっと、混血と移住が重層的で多元的な新しい文化とアイデンティティをもたらすと考える作者の前向きな世界観の現れためなのだろう。
実はこうした感覚に島国の奥に暮らす私は少々当惑も覚えたのだが、実際一部の独立国を別にして、今もって欧米各国の保護下にあるカリブの小島は物理的にも地理概念的にも日本から遠いだけでなく、本書のような躍動的な世界観を生む文化的境遇においても遠いところだ。
それはアフリカにルーツを持ちながら、カリブの島々黒人として生まれ育ち、植民地時代を経験しながらも独自の文化をはぐくむ一方で、本国や近隣諸国の無視できない干渉と交流にさらされるカリブの島々の人々の視点が、同じ島国でもいまや内向きとなった日本の眺めとは大いに異なるためでもあるだろう。
私は、グローバリズムというアメリカ的単純化とその反動から社会の不寛容さが進む現代において、作者が物語で示唆するような人種の移動と文化の混交が単純に進展し受け入れられるとは思えないが、それは単に島国の奥から出て行こうとしないものの頑迷な見識に過ぎないのかもしれない。
なお、本書の原題は「ひどい人生」というようなものだったらしい。
これをエネルギー感があふれ、しかも家系を意識させる「生命の樹」とした訳もまた、本書の内容をよく表して秀逸だ。
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