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紙の本
<空虚な秩序>に支配された近代日本のヴェールを切り裂いて見せてくれる渾身の論考。20年ごとの「再生」と明治の洋風建築・地下空間という象徴空間を手がかりに…。
2001/06/25 17:05
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は気鋭の建築評論家である。文化や歴史の象徴空間としての建造物を取り上げたユニークな著書で評価が高い。
本書では、三島由紀夫という人間が「欧米」と「国体」の両極で分裂し矛盾を抱えた存在だったことに着目し、そこに明治以降の近代化の問題を透視している。三島の自決は、欧米=国体の構造を抱えた近代の矛盾との心中ではないかという見解である。
その考えに立った上で、本文のほとんどのページを費やして、時代と添い寝した三島の精神と小説の流れを追うのである。
目をひくのは、近代化における「神話的時間」と「象徴的空間」の措定。思い込みが強いかとも思わせるパースペクティブの設定であるが、この切り裂き方にはとても魅力があると思った。
多くの資料を読み解き、思考を重ねて斬りこんでいるために、その先が鮮やかに拓けて見える心地がした。読み終わると、近代のひとつの骨格が仰ぎ見ることができるイメージである。
ちょうど大きな寺院の柱の跡しかない廃墟を訪れて、昔そこに立っていた壮麗な伽藍の姿を幻術で見せられたような感じ…。
著者の言う「神話的時間」は、日本人の精神構造の基底に隠された「転生」のシステムである。それは万世一系と呼ばれるところの天皇の存在。ひとりの天皇が死んでも、霊は次の天皇に宿るという大嘗祭の構造である。
今上天皇が天照大神につながり、その存在を頂点に置くということは、不滅の欲望を抱え込んでいるということ。近代日本は、この時間概念を再び強力にしたというのである。
伊勢神宮の20年ごとの式年造営も同じように象徴的で、オリジナルとコピーの価値の落差がないことが、今上天皇と天照大神の関係にも似ていると三島も指摘しているらしい。
天皇と伊勢の「再生」が三島に大きな影響を与え、20歳までの夭折に意識を向けさせ、夢の中に住んでいるかのような10代の少年たちを書かせたのではないかと述べている。
いまひとつの「象徴的空間」は、20年ごとに「転生」するように、近代と三島に関わった西洋風建築の「バルコニー」である。
満15歳という若さで王政復古を経験した明治天皇。天皇を基軸とする中央集権化を強調するため巡幸を多くこなした天皇が、熊本での開化の象徴たる熊本ジェーンズ邸を訪れたとき、ジェーンズ夫人にバルコニーから花びらをまかれたという逸話。
欧米に追いつくため西洋人を演じる舞台として用意された鹿鳴館。たえず外来の他者を演じなければならないという脅迫観念が日本人にあり、「仮面」をつけて演じ「仮面」こそが「素顔」で自己のありかを統一できないという悩みではないかという指摘。
三島が小説の舞台のモデルにした西郷従道邸、2・26事件で戒厳司令部となった軍人会館、白亜の三島由紀夫邸、そして盾の会の決起の舞台となった陸上自衛隊の市ケ谷駐屯地へとバルコニーの解読が続く。
三島の死とともに近代が終わってから、彼が守ろうとした<空虚の秩序>が単なる<空虚>となり、それがオウムや酒鬼薔薇事件へとつながっていく様を、上記の時間と空間の視点で追う。
ちょっとクセがあるようにも取れるけれど、見事な組み立ての論考である。
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