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近代のイギリスの歩みと、イギリスを「文明の表象」として捉えてきた日本の近代について、考察している本です。
とくに、大塚久雄を中心とする日本の「戦後史学」において、イギリスの資本主義の成立過程を「近代」の典型とし、日本がそこからどれほど隔たっているかを測定するという見方が、どのように成立し、どのような批判を浴びることになったのかを論じている第1章に、興味を覚えました。
著者は戦後史学について、「たんなる歴史学というより、そもそも社会科学、人文学、そして芸術活動さえふくむ広い文化領域の存立を保証する前提であり、それがぐらついては他の体系も動揺してしまう、という性格の学問であった」と述べています。一方著者は、これとは異なるロマン主義的な歴史学の潮流を「星菫学派」と呼んでおり、堀米庸三と越智武臣をその代表にあげています。もっとも、イギリスに対するロマン主義的な憧憬も、イギリスを「文明の表象」として捉えるという点では、戦後史学と前提を共有していたと言えるかもしれません。これに対して著者は、社会史や民衆史などの新しい歴史学の潮流の中で、イギリスをモデルに日本の発展の道筋を描こうとしてきたこれまでの歴史学とは異なって、イギリスの歴史の固有の厚みがしだいに明らかにされつつあることに注目しています。