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紙の本
永遠の少年たちのために
2001/05/19 12:21
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投稿者:春都 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校時代、高野は火星への夢を胸に、教授と呼ばれた日高、清水、北見、氷川とともに手製のロケットを造っていた。
時は過ぎ、新聞記者となった高野はある爆発事故がきっかけで、ふたたび彼らと出会う。
それぞれ社会的に成功をおさめていたかつての仲間たちは、みなロケットへの想いを変わらず持ち続けているのだった。
壮大なおとぎ話だ。荒唐無稽でご都合主義、リアリティなど欠片もない。
それで何が悪いのだろう。
彼らが追い求めた夢、「ロケット」には我々の忘れてしまった若き日の想いまでもが乗せられていて、どんなに「すれた」読者でも一笑に付すことはできない。
僕はいわゆる「アポロ」世代ではないし、宇宙開拓にもそれほど興味があるとは言えない人間だが、この作品はそんな人々をも「宇宙」に連れていってしまうかのような魅力があるのである。
登場人物の一人は言う、「これは高校時代の夢の実現などではなくて、ぜんぜん別の〈打算〉と〈目的〉があってのことだ」と。
読者はその言葉が意味する「現実」に淋しさを覚えながらも、一方で間違いなく「夢」の追求でもあることに安心し、惹かれるのだ。
彼らの姿を自分と重ね合わせながら。
新保裕一を思わせる専門的な知識と言葉が多く使われているものの、ストーリーに支障をきたすものではなくあくまで飾りだ。しかも重要と思われるところは主人公やその他の登場人物によって解説されるため、読んでいても心地がよい。文章も読みやすい。
一芸に秀でた人間が集まって何かの目標に向かって団結するという形式はよくあるもので、言ってしまえば物語を作っていくにはわりと簡単な手法なのだが、やはりそれぞれ個性が出るから面白いと言わざるをえない。
特にこの作品はわずか5人で「ロケット」などというとんでもないものを造り、なおかつビジネスにまで仕立て上げようというくらいだから、各々のキャラクターも個性的でしかも必然性がある。「夢」を相対的に大きく見せるために必要最小限の人数にしたかったのだろうから、さすがに多少の無理はあるが仕方ないところか。
『このミス』ではたしかこれを「青春小説」と言っていたような気がする。それに僕はあえて一言つけ加えてまとめとしたい。
これは「永遠の少年たちのために書かれた青春小説」である。
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