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読始:2011/12/2
読了:2011/12/17
メアリー・スチュアートの弱点、欠点についてスパッと切っている。その切れ味が気持ちいいくらい。
シラーの悲劇ではメアリーを聖女、エリザベスを陰険な女、として描いているらしいが、私は断然ツヴァイクの語り口の方に共感する。
自分の治めなければならない国スコットランドを厭い、国政よりも自分の小さなサロンをフランス風に飾り立てることに没頭、貴族たちの反感を招く相手との向こう見ずな恋愛結婚、あっという間に熱が冷めて不倫、あげくの果てに夫の殺害に手を貸し、息子を捨てた、、、これらの史実を読んで、「聖女」と解釈する人の気持ちが分からないなぁ。。。「男(自分)のために身の破滅までも厭わない女」ってのが男性の自尊心をくすぐるのかなぁ。。。
でもメアリー・スチュアートの場合、ボスウェルのために犯罪でも何でもする気はあっても、王位を捨てる(=破滅する)気はまったくなかった、としか思えない…。ボスウェルに加担すれば、いずれ廃位は避けられない、この2つはほとんどイコールなのに、先を見通せていなかった、もしくは、見たくないから見なかった、としか。
「見たくないものは見ない」「聞きたくないものは聞かない」
このタイプの人間はどうしても好きになれない。
…しかし、エリザベスもこのタイプなのだなー。
エリザベスの強みは、一人二役ができること。
p. 109「この無分別な女は、結局また新たに馬鹿なことを仕出かして、評判と値段とをすっかりだめにしてしまうのではないか」
シャトラールの寝室侵入事件後の、貴族たちの心情。
「無分別な女」
これこそメアリー・スチュアートを形容するための言葉とすら思える。
p. 120「これらの年月を通じてずっと、メリー・スチュアートはスコットランドの上に立つ女王であるだけで、スコットランドのためを思う女王ではけっしてない。彼女が書いたいく百もの手紙はすべて、彼女の個人的権利の確保、拡大にのみ向けられているが、国民の福祉とか商業、航海、戦力の促進を問題にしている手紙は、まったくただの一通も見当らない。(中略)彼女の思考、彼女の感情もけっしてスコットランド的な、国民的なものとはならなかった。彼女はスコットランドのために生き、かつ、死んだのではなくて、ただひたすらにスコットランド女王でありつづけようとして生き、かつ、死んだのである。結局、メリー・スチュアートは、彼女の国に、彼女の生涯の伝説のほかには、なにひとつ独創的なものを与えなかった。」
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ツヴァイクの伝記は如何にも資料が豊富という感じだが、どの登場人物の心理にも一々入り込み、細かく推理しすぎている嫌いがあって、逆にツヴァイクの主観が強く印象づけられ、ごてごてした印象で、人物像がぼやけてしまう。
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「わが終りにわが始めあり」悲劇的な死をとげてはじめて名声の始まりがある。現在の歴史的評価についてメリーとエリザベスはどう思うのだろう。
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16世紀に宗教改革の余波でヨーロッパは激動し、辺境の島国・英国が世界の覇者へとのし上がっていった。「君主を斬刑」という前例のない犠牲メリー、勝者エリザベス。両者は君主が婚姻によって個人資産のように国土を継承していた時代から絶対君主が国家の利益を代表する国家概念大転換を代表する対照的な義姉妹だった。
教養とは何かを私は考える。メリーの文才、度外れた行動力(ことに乗馬能力)は天才がフランス宮廷で育まれたもので、堅固なカトリック信仰は刃が打ちおろされるまで揺るがず、悲劇の女王と名を残すが、歴史上に評価されるのは?『国益』を考える、新教への抵抗と貴族の矜持をも。
「六日間の女王」の処刑も先にあった。