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投稿者:APRICOT - この投稿者のレビュー一覧を見る
競馬シリーズの1970年の第9作。
主人公は尾羽打ち枯らしたパイロット。打ち続く悲運に、輝かしいキャリアも家庭も失い、失意の日々を送っている。そんな彼が、新しい友人(チャンピオン騎手とその姉妹)との触れ合いを通して、閉ざした心を少しずつ少しずつ開き、生きる希望を取り戻していく過程に、しみじみとした味わいがある。本シリーズでは珍しく泣かせる、最高に感傷的な作品(悪い意味ではない)。
しかし残念ながら、人生ドラマの描写に力を注ぎすぎたためか、ミステリーとしての本筋は実におざなりで、つまらなさもやはりシリーズ“最高”レベル。これがもう少しましだったら、たとえば同じパイロット物の『飛越』のような、地味なおもしろさでもあれば、もっと高い点を付けたのに。
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主人公はパイロットのマット・ショア。
かってはエリートだったのが、妻のために忙しい国際線を辞めたところからケチがつきだし、現在は落ちぶれかけたデリイダウン社でチャーター仕事を始めたばかりで、離婚手当にも苦労する毎日。
イギリスで大人気の騎手コリン・ロスを含めた数人を競馬場へ運ぶ仕事を引き受けたところ、飛行機に不審なきしみを感じて乗客の抗議を押して臨時に着陸。降り立った途端、その機が爆発炎上…
競馬界を知らなかったマットがコリンとの友情とその妹との出会いによって、事件に巻き込まれると同時に、新たな人生を見つけていきます。
もとチャンピオン騎手で、パイロットとして従軍したフランシスの経歴が生かされた、臨場感溢れる展開になっています。
日本での発行当時は誰でも知っている超有名騎手というのは存在しなかったので〜王選手みたいなもの?って感じでしたが、今なら武豊でしょうね。
文庫では10冊目で、昭和52年の発行になっています。
原著は1970年! それほどの古さは感じられませんが〜決まり過ぎなぐらいカッコイイ文章に、作家として自信を持ってノリノリになっていくフランシスの初期の勢いが感じられますね。
ファッションは当時流行のものを想像した方が楽しいかな。
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9―10
大好きです。主人公は元国際線パイロットのマット・ショア。さまざまな事情から転落して、今は小さな航空会社で働いている。
あるチャンピオンジョッキィとその家族と知り合ったことから、新しい人生が開けてくる。
言い訳をしない主人公です。
フランシス節炸裂。
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再読シリーズである。
今ひとつ印象が強くないのは、フランシスにはまったばかりで1日1冊ペースで既刊本を読んでいた頃に読んだからだろう。飛行機の話、というくらいの印象しかなかった。
再読して、思いがけないほど派手な話であることにびっくりした。最初の爆破事件、中盤の山場である迷子の飛行機を探すエピソード、そしてラストの見せ場。すごい。
傷心から心の閉ざしてしまった主人公が再生する物語、というのは、まあ、王道パターンだ。そしてこの小説は、絵に描いたようにそのパターンをなぞっている。ただし、その傷心の原因がわりあい(客観的には)それほど大きなことに見えないので(僕だけだろうか)、なんだか物足りない(いじわるかな)感じがする。
その割に、主人公のスーパーマンぶりはものすごいので、結局復活劇にもうひとつ共感できなくて、つまり「すごい人はやっぱりすごくて、途中いろいろあっても、最後はいいとこさらってくんだよね」って印象を持ってしまった。(それは僕は小市民でひがみっぽいからだろうか)
劇画的な派手さがすごくあるにもかかわらず、もうひとつ心にしみてこないのはそのあたりのような気がする。
が、純愛小説として読めば、なんだか心を締め付けられるようなところがたくさんある。主人公が、かわいいのだ。
実際に飛行機を操縦していた人にしか書けないのだろうな、と思う中盤のエピソード。主人公の思いにしっかりと共感できるのは、これが恋愛ドラマだからだ。正義のためならこうはいかないはず。
ただし、このエピソードで僕の涙腺が一番やばかったのは、裏方さん達の頑張りに主人公がちょっと触れた部分であるのだが。
それもまた、フランシスならではの味である。
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1970年発表の競馬シリーズ第9弾。フランシスの作品は骨格がほぼ共通しているため、肉付けするプロットの出来如何で面白さが大きく異なる。本作を一言で述べれば「薄い」。雇われパイロットを主人公に保険金詐欺の絡む事件をメインにしているのだが、終盤へと引っ張る魅力的なエピソードが乏しいことに加え、姑息な悪事を働く悪玉が小粒なため、さっぱり盛り上がらない。シリーズの〝売り〟といってもいい主人公を痛めつけるサディスティックな展開も、己の甘さ/弱点を克服し窮地を乗り越えていく最大の見せ場も、お粗末なものだ。同じく〝B級〟とはいえ、筋立てが楽しい「重賞」(1975年)のような作品もあるため、この時フランシスは迷走していたのだろう。危機に陥った飛行機と管制塔とのやりとりで、いかにも「英国紳士」然とした冒険シーンもあるのだが、敵役のショボさのみが目立ち、全体的に味気ない作品になっている。生業は異なるとはいえ、イメージ的には画一的なシリーズの主人公たちを引き立てるのは、魅力的な悪役あってこそだと、あらためて感じた。