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ヤスパースの考える狭義の学問(科学)とは、まず「科学の性格」を重視した。思い込みや信念、人格の介入は認めず、普遍妥当性は、哲学的確信がなければならないという。広義の概念は、合理性に基づく真理としての思惟、思想とした。しかし、狭義の学問には限界があった。それを「存在の認識」(知られていないことを知っている。)、「目標の付与」(妥当的な価値を構築しない)、「固有の意味付与」(科学的真と証明されてないものとを区別する)の3つを整理している。
ヤスパースは、学問の意味の正当化を【「道具性や単なる好奇心を超えた根源的な知識欲」】と表現した。
では、学問の前提と必要な方向付けをどう考えているか。基本的に彼は、学問は無前提性を前提としていて、認識の方向を予め確定しない立場である。そして、必要な方向付けを、1論理的な認識、2学問の存在自体の肯定、3意志の決断としての対象の選択、4本質・深層・意義を見極める理念の主導の4つを挙げている。人間の知識欲には、無制約性がある。一貫して、個別と一なるものの存在(個別は全体の一部)を重視している。全体は不可知(わからない)という無知と、結局その「個別の事実」を知ることでしかない(部分しかできない)現実を認識している。
「哲学」の多くは科学が重なっている。重なり方には次の3つがある。論理学と認識論に限定(科学の下僕になる)、感情・宗教重視の反主知的態度(芸術や宗教との区別がつかなくなる)、科学的方法による存在全体の把握(知の集積が全体知ではない)だ。しかし、哲学と科学の混同に注意を要する。哲学は、個別の事象的な知ではなく、存在自身や存在自体の知である。客観・合理的には把握できない。
科学と哲学は、相互に依存している。科学を経ない哲学は、常識的処世訓や狂信的生活信条に過ぎない。哲学にとって科学とは、科学的精神態度に立脚し真理を追究する精神や態度と、哲学的に思惟に不可欠な前段階(無知の自覚)に必要なもの、そして科学万能の反省という視座を得ている。一なるものとしての存在(体系・統一的世界)認識への欲求という、哲学的知識欲が高度精神活動としての科学を支えている。【わかることがわかる、わからないことが増えていく】
大学における教養とは、学問的教養である。それは【客観的認識のためには主観的価値評価を常に停止できる能力】であり、学問性の態度を重視し、専門的知識・技能以上のものとなる。この教養には、自然科学的なもの(自然の観察と実験を通じて結果より認識方法を重視する立場)、精神科学的なもの(人間の理解に向けての考えた成果自体が大事)がある。
ヤスパースは、学問の研究と教授をどのように考えているか。学問の意義を支えるものとして、まず知の全体との関係を維持する「研究者同士の交流」を重視した。そして研究と授業の統合を主張し、最高の研究者が唯一の善き教師(!)(オルテガと異なる)と述べている。
職業のための専門教育の側面では、大学はその基礎しか与えられない。訓練自体は職業生活における実践の中で行われる。大学は研究と方法の態度の訓練の場で、学問的な思考の教育を受けるところである。具体的���は、知識を獲得し、問い、判断する能力を養う。知識の修得ではなく研究との接触で職業教育を行う。
彼は大学で誰が何を教えるかも考えた。研究のダイナミズムを教える方法として、スコラ的教育(知の体系的教材の伝達:伝統への畏敬)、師匠による教育(師匠への従属:教師の人格への畏敬)、ソクラテス的教育(教師と学生は同等の存在:精神理念への畏敬)を挙げ、ソクラテス的教育が本質と述べた。それは、1)根源的知識欲に基づく、2)自由な大人の自己責任で、3)指図も誘導も与えないということ。研究と教育の統一の原則と、研究と教育を精神形成過程に結合を重視している。
授業の本質をどこに求めているか 講義、演習、ディスカッションのうち、ディスカッションをソクラテス教育の実践形式とした。小サークルで原理的な問いについて、1対1の2人による深化をねらっている。しかも、才能豊かな少数者に対する自立的学習と、資質を持ちかつ教師を必要とする者が対象としている。こうした者同士の交わりの中から「真理」が成立する。人間の孤立的存在が空虚であるように、孤立的に存在する真理も真理でない。真理は交わりの形態に応じて多義的となる。類型化すると、実用的真理(:自己中心的)、科学的真理(:抽象的)、哲学的真理(:理念的)の3つで、これらすべてが緊張関係を持ちながらすべてが大切としている。
大学における交わり重視している。無条件に真理探究する場であり、直接的な実際上の責任を負わないのがルール。問を設定し、論理的ディベート(明晰性に基づく勝敗)と、精神的ディスカッション(自身の考えの明確化・理解・発見)をすることにより深化していく。
ドイツの研究を基軸にした大学論であるが、今日の日本のほとんどの大学には適用することが難しそうだ。しかしこの論を大学院にあてはめることはできるかもしれない。
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オススメの理由
大学のあるべき姿を考えるうえでのいい材料になったので。
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ヤスパース選集の跡に、同じ理想社から出ている。改訳版?とりあえず古い選書を図書館から借り出す。アマゾンにデータがなくて選書で登録できない。