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美術品の贋作の何たるかを理解するにあたっては、本書に紹介されている以下のエピソードを読めば事足りるだろう。
(以下概略)
ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館が1912年に入手したテラコッタの婦人像はバスティアニーニ(注:著者が史上最強の贋作者の1人として記している)の贋作だと考えられていた。オリジナルはルーブルにあるデシデリオ・ダ・セッティニャーノのもので、こちらは正真正銘の本物ということだった。ところが現在、ルーブルのデシデリオが贋作疑惑に包まれている。どうやら、バスティアニーニはヴィクトリア・アンド・アルバート美術館のテラコッタ婦人像をモデルにしてルーブルのデシデリオをつくったらしいのだ。(概略終わり)
ルーブルのような超有名美術館にも平然と贋作が陳列されているという現実。真作が贋作に、贋作が真作に入れ替わる鑑定の難しさ、すべての科学的テストをかいくぐる贋作の凄味----メトロポリタン美術館の館長まで務めた実務家が記したものだけに、贋作者の系譜、贋作にだまされ、それを見破り返すいたちごっこに関しては読み応え十分の内容となっている。著者本人はかなり尊大な性格のようで、文章の端々に顔をのぞかせるドヤ顔はいただけないし、文章そのものも読みやすいとは言いがたい。しかし、そうしたマイナス面を差し引いても一読の価値はあるだろう。面白かった。