紙の本
生命とはそもそもどんなものなんだろう
2003/08/27 00:56
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投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、ブラウザのセキュリティ不備やコンピュータ・ウィルスが頻々と報告されている。盆休み明けの混乱も予測されていた。幸い大きな騒ぎは何も起こらなかったらしいが、対応に追われたサポート担当の方々も多かったことだろう。
筆者にとって、コンピュータ・ウィルスに関連した作品を考えた時にまず思い出すのが本書である。
「おきのどくさまウィルス」と呼ばれる新型ウィルスが人気フリーウェアを介してばらまかれた。日本中が大混乱に陥るが、とある小さなソフトハウスがいち早くワクチンキットを発売。いったんは沈静化した騒ぎは、ふたたびみたびと現われる二次三次「おきのどくさまウィルス」によって、ネット壊滅さえ危ぶまれるほどの大パニックに発展する。このウィルスは果たしてどこからやってきたのか。人工生命研究者が開発した、まったく新しい発想によるウィルス対策システムとは。ネットワークからウィルスを撲滅することはできるのか?
今から思えばまったく驚くべきことなのだが、本書が書かれたのは「小説すばる」に連載された1994年。もう10年近くも前なのだ。コンピュータ関連の世界で10年と言えば、ひと昔どころの騒ぎではない。94年はまだウィンドウズ95さえもあの華々しいデビューを果たしておらず、ネット家電やブロードバンドどころか、携帯電話すら今のような普及をしていなかった時期である。
今本書を読み返してみても、おそらく10年近いタイムラグはほとんど感じられないであろう。むしろ当時よりもインターネットが生活に密接になってきている分、コンピュータ・ウィルスの恐怖に対する切実感、「パワー・オフ」しか本当に対策がないのか、という事態への切迫感は増しているはずだ。
コンピュータ・ウィルスに限らず、ウィルスに「生命と非生命のあいだ」を見る人々は多い。本書にもその概念は現われているが、この物語の非凡なところは、ウィルスが単なる「生命と非生命のあいだ」にある物質では終わらない点である。次々に現われる新型ウィルスとそれらへの対応のいたちごっこは、適者生存の生命進化の道筋そのものなのだ。そしてその進化が行き着くところまで行き着いた時——。
人工知能や人工生命とコンピュータという単語の組み合わせからは、もしかしたら『2001年宇宙の旅』のHAL9000というような恐ろしいコンピュータという想像がなされるかも知れない。ウィルスパニックサスペンス(?)とでも呼ぶべき本書ならば、むしろその展開の方が自然であろう。だが、著者・井上夢人氏の描いて見せた未来像は、どうやらそのようなありきたりのものではなさそうだ。人間と電脳世界に棲む「生命」との今後の関係がどのようなものになるのかは語られないが、暗示されるのは可愛らしくも明るい、奇妙に人間的で温かいとさえ言えるような交流の可能性だった。
実在世界から踏み外さない、手で触れるようなリアリティと「見てきたような嘘」の絶妙のバランス、ぐいぐい引き込まれるストーリーテリングの妙と、そして爽やかで心地よい読後感。本書には井上夢人氏の魅力がぎっしり詰まっている。600ページ近い厚さがあるが、読み始めたらきっと滅多なことでは止めることなどできないだろう。
家庭へのインターネット環境の普及がだいたい終わってセキュリティ意識も浸透して来た今、既読の人も改めて開いてみれば、きっとまた違った楽しみ方ができる。いうまでもなく、このスリルとどきどき感をこれから味わうことのできる未読の人は幸せである。
紙の本
始まりは「おきのどくさまウィルス」
2002/02/11 03:03
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投稿者:mikako - この投稿者のレビュー一覧を見る
コンピューターが意思を持ち人を人を支配する、そんな流れのストーリーは昔から数えきれないくらいありますが、この作品はそれに似ているようで全く違う、『生命』そのものを表現しています。始まりのコンピューターウィルスによって起きてしまった事件と、そのウィルスがパソコン画面に表示したシンプルな表示という強烈な印象によって一気にストーリーの中に引き込まれてしまいました。
ネットワークや生物に関する難しい内容も登場人物の会話を通してとてもわかりやすく説明されています。『こんなことあるわけない』と『もしかしてありえるかも』が自分の中で行ったり来たりするような感じがしました。もしあり得た時、自分はこれを受け入れ認めることができるだろうかとちょっと怖くもありますが、まあ元々パソコンが言うことを聞いてくれない時があっても対処もろくにできないので、この物語の中でのことが本当にあったらそれはそれで面白いかもしれない、などと思ったりもします。
最後まで先の展開が全く見えず夢中で読ませてくれる作品でした。
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開発された人工生命体は、開発者の手を離れ?生き延びる為?に進化し続ける。ウイルスと化しても社会と共存の道を?生命体?として選択する。ネットを舞台にやや知識レベルでおもしろく読めるSF。
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情報工学を一応学んでいるのですが(プログラミング超初心者)、パソコン用語を覚えられたので良かったです。ストーリーも楽しかったです。
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電子技術の実技授業中、高校生が掌に穴をあけてしまう事故が起こった。原因は突然止まって、また突然動き出したしまったコンピュータだという。画面には【おきのどくさま このコンピュータはコンピュータウィルスに感染しています】という表示があった。そしてこの”おきのどくさまウィルス”はどんどん姿を変え、第2次、第3次パニックを世界にまきおこしていく。
10年前に書かれたとは思えない程、古さを感じさせない物語だった。ウィルスとワクチンの度重なる攻防戦がおもしろいのはもちろんのこと、ウィルスを作った側やワクチンを作る側のそれぞれの苦悩・狂気なんかもしっかり書かれている。もちろん、ウィルスをつかまえようとする警察の動きも。人工生命うんぬんが出てくると、話は一気に複雑になったような気もするが、あまりコンピュータの知識がない人にもわかりやすく説明してくれているのではないかと。ただ、終わり方がなんかあやふや・・・
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コンピュータウィルスを扱った作品だが、この作品が書かれた当時にこれだけの内容を書いた先見の明に敬意を表したい
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裏表紙に惹かれて購入したのだけれど、分厚い本作はなんだかミステリーしてなかったかな…。
自我をもったプログラム…とでも言うのだろうか。規模の大きい何かが起こると期待したが、大した事件がおきなかったと思う。
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高校の実習の授業中、コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。モニター画面には、「おきのどくさま…」というメッセージが表示されていた。次々と事件を起こすこの新型ウィルスをめぐって、プログラマ、人工生命研究者、パソコン通信の事務局スタッフなど、さまざまな人びとが動き始める。進化する人工生命をめぐる「今」を描く――――――井上さんの作品なのでコンピューターに弱い自分でも内容は分りました。巨大な怪物が誕生するまでって感じでした。なのでラストが締まってないよ。
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再読。15年前にこの作品を描けるという著者のコンピュータに対する先見性には目を見張るものがある。現在となっては、ラストで提示されるウィルスのイメージも使い古されてしまった感がある。当時であればコンピュータ・ウイルスや人工生命の入門書として良かったと思う。物語としては盛り上がりに欠けていて、やや平板。
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10年以上も前にこんな内容を書けるなんてスゴイな〜と思います。
ウイルスの話と思いきや、最後は人工知能の話まで広がり、面白さはダントツ。
こんな世界がくると面白いな〜。
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高校の自習の授業中にドリルの刃が生徒の手を貫いた。
板金加工機械をコンピューターで制御する授業をしてた時、突然止まった機械を直すために色々と調べていた生徒がドリルの下に手を誤って置いたのだった。
しかし、パソコンの画面には「おきのどくさま・・・」の表示がされていた・・・。
コンピューター・ウィルスに感染していたのだ。
インターネットを通じてウィルスがばら撒かれた可能性がある。
パソコン通信の会社のJAM−NET事務局。ここのZAKCのソフトの感染が原因なのか?
この新型ウィルスは、あるソフト会社がワクチンソフトを発表したがあまりにも期間が短すぎる。
疑いを持つ通信会社のスタッフ。
このソフト会社には、一人のプログラマーが居て彼が作り上げたのだった。しかし彼は、罪悪感にさいなまれてワクチンソフトの発売の時に無料ソフトを作り上げて匿名でワクチンの入ったソフトをメールに出す。
いったん収まったウィルスだったが、再びインターネットを使って猛威を振るう。同じように見えたのだが、インターネットを使うほとんどののパソコンが被害を受ける。
この新型ウィルスを巡りプログラマー、人工生命研究所者、パソコン通信社のスタッフなどが動き始める。
コンピューター・ウィルスに翻弄される人々。
人々がたどりついた結末とは?
進化する人工生命を書いた作品です。
井上夢人が奇をてらわずに書いた作品です。(ん〜珍しい〜)
出版当初は、タイムリーな内容だったのでは?
文庫化してから読むとちょっと古いのかな?と感じます。
でも、そこは井上さんですからとっても面白かったです。
パソコンに弱い人でも読める作品になってます。(例えば俺)
コンピューター・ウィルスをちょと知りたいな〜と思う人は読んでみるといいかもです
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私自身がパソコンのシステムだとか
プラグラムダとかいうものにとんと無知なので、
ぜんぜん理解できなかったけど、
わかる人にはものすごく面白いんだと思う。
わからなくても何だかドキドキハラハラする感覚だけはあって、
それがあったから読みきることができた気がするので。
でも、10年以上も前にこんな話書いてる作者って、
やっぱりスゴイ。
この人のほかのミステリ作品、
嫌いじゃないんですよね。
今回はちょっと、
お手上げだったけど。
☆☆ ホシ2.5つ
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登場人物が多いです。
そして最初の高校生は、最後の出てきて終了ですw
ちょっと邪魔するだけの被害のないウイルス。
それを作って、ワクチンを売り出すだけで大儲け! という案に
知らずに担ぎ出された新入社員。
一方別の会社で制作中だった、己で成長していくパソコン機能。
それがウイルスを取りこんでしまった事によって
ウイルスもどんどんと成長していく。
たくさんの人達の希望や欲望や絶望が
巡って混ざって、しっぺ返しを食らって…。
あの社長だけは、確実に良かった、と思います。
あれで逃げ切っていたら、ものすごく納得いかない最後だったかとw
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約十五年前のコンピュータ事情はもちろん、今でもそっち方面にはかなり疎い私ですが、それでもサクサク読めました。もしかすると、書かれている内容と私が想像しているものには、大きな隔たりがあるのかも知れませんが、それはそれ、楽しめたので勝手に良しとします。ただ、刊行当時に読むのと、いま読むのとでは、感想が全く違ってくることは確かだと思います。
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日本版の「未来二つの顔」というところでしょうか。人工生命体については今はまだまだ進化している、イヤ進歩しているだろうから、今から描くとまた違った話になりそうだけど、知らないだけでどこかにいるような気がしないでもない。で、人工生命体だと思ったら、ダダー(天冥の標)だったりして。