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読んだきっかけ:ブックオフで100円、適当買い。
かかった時間:7/24-8/15(23日くらい)
内容:戦艦長門、大和など数々の軍艦を設計し、「軍艦の神様」と呼ばれた平賀譲……。頑ななまでの保守主義を貫き、バランス感覚を重んじた平賀は、満州事変を皮切りに次第に世情が軍事色を強める中、請われて東京帝国大学総長の重責を担い、「平賀粛学」を断行して大学自治を守るために力を尽くした。
すぐれた技術者であり、すぐれた教育者でもあったその生涯を、豊富な資料を駆使して描き出す。
(文庫:裏表紙あらすじより)
大満足の一冊でした。
やはり、自分の知らない世界を読むのは楽しい。
もちろん、作者の文章も非常に優秀でした。
本作は、大きく2章立て。
1.軍艦設計者としての平賀譲
2.東京帝国大学総長としての平賀譲
です。
そのどちらの彼も、明治の人間的で、非常に大きな魅力を感じます。1.では、彼は「不"譲"の人」として、ワンマンで自己中心的な、しかし優れた軍艦設計者であり、一本筋の通った人間として描かれます。
そして、その性格が2.の立場に立つ、第二章は非常に痛快です。
東京帝国大学は、当時、軍国主義へ突き進む日本国の方針に翻弄されています。
戦争を否定する弁を論ずる教授が、国家主義的な教授から激しく攻撃されたり、政府から休学の圧力を受けたりします。
そんな中、当時の総長は、精神的にも肉体的にも疲労し、辞職してしまう。
次の総長を選ぶとき、平賀の名前は、期待されていたものではなかった。が、議論が進むにつれ、力強く一本気で政治力もある「軍艦の神」を期待する声が高まる。
平賀は軍人に近いからむしろ大学にとっては逆効果では?と思えるが、平賀は軍に近くとも、決して「国家主義者」ではなかったのである。
こうして突然総長という職に就いた平賀は、自身がこれまでに築いてきた政治の世界へのコネクションや手練手管を用い、大学自治を守るため力を尽くすのです。
その、第一章と第二章の転換が非常に物語としても楽しめる逸品です。