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紙の本
たったひとつの冴えたやりかた
2001/01/19 05:26
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:亜村有間 - この投稿者のレビュー一覧を見る
少々失礼して、大風呂敷を広げさせて頂こう。
この物語は、我が国がこれから取るべき、ただ一つの正しい政策の指針を大胆に示すものである。その趣旨を簡潔にまとめると一言ですむ。
「日本は有人宇宙飛行を実現すべし」
この本は、それがどんなに簡単なことなのかにまだ気付いていない人のためにある。
まず、基本的事実をはっきりさせておこう。本書の宇宙飛行計画は、基本的・原理的には実現可能である。証明は私自身の手には余るが、作者のホームページに批判が書き込まれることがないかどうか確かめるのが一番簡単であろう。インターネット上で嘘をつき続けることは、時に、どの学術誌で嘘をつき続けることよりも困難である。
しかし、同時に本書は堂々たる一級のエンターティメントである。現実の骨組みの上に、フィックションが大きく肉付けされて成り立っていることは忘れてはならない。少女がエアバスを着陸させることは(正規の訓練なしには倫理的にも)不可能であり、厚さ二ミリの冷却不要な宇宙服はまだ開発されておらず、事故が発生するのは精霊がたちの悪い悪戯を仕掛けてくるためではない。
小説がフィックションである、そんなあたり前のことをわざわざ注意しなければならないほど、この本は我々を本気にさせてくれるのである。そう、この作者は本気なのである。作中の少女宇宙飛行士が、お気楽に「結果オーライ」で行動しているように見えても、その心の底に、自分でも気づかない未知への情熱を秘めているのと同じように、今時のアニメ風のサービス点呼盛りの物語を軽妙な口調で語りながらも、行間の隙間から、作者の熱い想いが滲み出てきている。面白おかしく読み終えたその後には、いつの間にやら、その熱が移ってしまっているという案配だ。
しかし、なぜ、これが、「日本の政策の指針」とまで言い切れるのか? それは、本書の中に、今、我が国が最も必要としている、「国際的・ナショナリズム」の思想が提唱されているからなのである。
それは、本書のクライマックスにおける、短いエピソードにおいて、はっきりと姿を表す。日仏共同ミッションのはずなのに、日章旗が用意されていないことを土壇場で知って唇を尖らせたヒロインは、なんと、フランス国旗の真ん中の白い部分に、赤ポールペンで日の丸を書き込んでしまう。「トリコロールを汚さないで!」というフランス少女の悲鳴は黙殺である。それは、あまりにもせこく、情けないナショナリズムであり、両国国旗への無神経としかいいようのない呆れた冒涜でもあり、そして、何よりも、恥ずかしいぐらいに暖かいインターナショナリズムなのである。
そう。ナショナリズムを生理的嫌悪反応で恐れる必要はない。ただ、インターナショナリズムを同時に育て上げていけばいいだけのことなのである。だから、日本国民の誇りをもって、有人宇宙船を打ち上げようではないか。それは…今、あなたが考えているほど難しいことではない。
…冒頭にもあるように、少々洒落っけを交えて書かせて頂いています。私を本気のナショナリストだと思われることは、むしろ、私の文に多少は説得力が感じられたということで光栄ではありますが、この書評自体も一つの「読み物」として、お気楽に楽しんで頂けると、あなたの人生もより豊かになるでしょう。
でも、すべてが冗談のつもりでもありません。冗談の間に見え隠れする熱い本気を読みとること。それが、この本と、この書評自身と付き合うための、たった一つの冴えたやり方なのです。
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