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評伝山中貞雄 若き映画監督の肖像 みんなのレビュー

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紙の本

山中貞雄を論じた本には千葉伸夫による評伝(本書)のほか、同じころ書かれた加藤泰の絶筆がある

2011/11/26 12:27

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:本を読むひと - この投稿者のレビュー一覧を見る

 録画された『人情紙風船』のあまりの素晴らしさに、パソコンのその画面を一時中断し、急いで山中貞雄の本を図書館に捜し、予約する。もちろん映画の素晴らしさ、凄さは、それについて語られたどんな言葉よりも、その映画そのもののなかにあることが分かりながらも、その凄さについてどんな言葉があるのか確かめたい気持ちへと、その画面の凄さ、映画の流れの素晴らしさが駆り立てるのである。
 残されたわずか3本の映画は以前に観ているし、四半世紀前に「山中貞雄作品集」が刊行されたことは当時、書店にあったパンフレットで知っていた。だがなぜか山中貞雄についての諸言説をまとまったかたちで読むまでには至らなかった。
 今回私が読もうとしたのは本書、千葉伸夫の評伝と、千葉監修による山中貞雄についての言説を網羅した『監督山中貞雄』であるが、前者は1980年代に刊行された「山中貞雄作品集」の別巻に収録されたものを単行本として独立させたものであり、後者は「山中貞雄作品集」出版を生かし、もう一冊の全一巻からなるシナリオ集『山中貞雄作品集』と対になるように、山中貞雄と彼の映画について語られたすべての貴重な言葉を可能なかぎり集めた大部の本である。かつての3冊からなる「山中貞雄作品集」の解説や月報も収録しつつ、戦前の映画雑誌などに載った批評、エッセイ、追悼文をたっぷり盛り込んでいる。たとえば山中貞雄が1938年に戦病死したとき、多くの映画雑誌で追悼の特集が組まれたが、『シナリオ』臨時増刊の山中貞雄追悼号から、まとまって『監督山中貞雄』に収録されており、それは160ページ分に達する。
 そのほか『キネマ旬報』『日本映画』『映画之友』『映画朝日』『映画評論』など多数の雑誌が追悼の特集を組んでいることが分かる。
 本書はそうした言説を多数、引用して組み立てられている。山中貞雄の場合、彼が監督した映画自体、不幸なことに多くのフィルムが消滅してしまい(23本の映画のうち残っているのは3本)、著者が観ていない映画については、そうした過去の言説が利用されている。そうした文章に、往々にしてある〈見てきたような嘘〉といった感じが本書には、ない。それが読んでいて気持ちよかった。

 最初『人情紙風船』を含む3本の映画について語られた部分だけを読み始めたが、到底すべてを読まずにはいられなくなり、冒頭に戻って通読した。それというのも、コンパクトな本書の内容による(本自体も文庫をやや大きくした判型)。またコンパクトなのに、書き漏らしている重要なことはない印象を読むものにもたらす。
 実は並行してアメリカの映画監督、ニコラス・レイの評伝も読みだしたのだが、こちらの本に通読させる力がないのは、一つはコンパクトでないためだ。ニコラス・レイの映画を語るには、彼の初期の映画のように簡潔である必要がある。ベルナール・エイゼンシッツ『ニコラス・レイ』は2段組みで800ページ近くもあり、また詰まりぎみの文字詰めも読みにくい。徹底してニコラス・レイを研究するためには、あらゆる情報を盛り込んだ本がいいかもしれないが、エイゼンシッツは細部にこだわりすぎているような気がする。
 それにしても山中貞雄の評伝を息せききって読ませずにおかないのは、彼の短い生涯の輝きのせいだが(亡くなったのは、満年齢では28歳)、『評伝山中貞雄』と『ニコラス・レイ』を比較して気づいたことがある。後者の評伝の主人公が、前者の本の主人公の死去した年齢に達するのは100ページに満たないところなのだ。
 『監督山中貞雄』には、27歳のときに撮った『人情紙風船』について、その映画の素晴らしさは若さの割に凄いだけ、といった批評があったが、私はその言葉に率直に肯うことはできない。映画に限らず、突きつめられた表現には、表現者の實年齢をこえた何かがあると思うからである。『人情紙風船』には、27歳のときの映画、ということをフッと思わせつつ、次にはそんなことを忘れさせてしまう何かがある。
 本書には『監督山中貞雄』にはいくつもある瑣末な『人情紙風船』批判がない。この映画について必須のことのみが語られている。

 ところで本評伝は、その1年前に山中貞雄の甥にあたる加藤泰によって書かれた『映画監督山中貞雄』に対して、何か節度のある構えを見せていると思う。私はその本をまだ読んではいないのだが、著者はすでに上梓された加藤泰の山中貞雄論から必要な部分を引用するようなことをしていない。そうした本書の姿勢だけで、著者の加藤泰に対する敬意が充分に感じられる。機会があったら、絶筆にあたる『映画監督山中貞雄』も読んでみたいと思う。断わるまでもないが、『映画監督山中貞雄』と『監督山中貞雄』とは別の本である。


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