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沈宰模(シムジェモ)と権炳済(クオンピョンジェ)は虹橋の上に立って広々とした楽安平野を眺めていた。
「あの手前に見えているのが玉山で、その向こうに曹渓山に抜けるオグム峠があります。左の方に遠く見えるあの大きな山が澄光山で、右側のあの切り立った山が帝釈山です。あれらの山並みはすべて曹渓山に連なっていますが、今後特に問題となると思われるのは澄光山です。澄光山は高さのわりには懐が深く谷が多いだけでなく、その位置がまた微妙で、鳥城や宝城に山並が続きます。未確認ではありますが、廉相鎮が率いる反乱軍は曹渓山に身を潜めているものと思われます」
権炳済が指差しながら説明した。(113p)
この小説は段落だてごとに登場人物たちの主観で物語が進んで行く。そこに出てくる人物は、沈宰模の様に共産主義者と敵対する立場の地方軍司令官でありながら、小作人の立場に立とうとする者や、金範佑の様に共産主義者にはならないが、民主民族独立派の立場に立つ者、廉相鎮の様に知識と行動力を併せ持った南朝鮮労働党の闘士、其の弟で反動の走狗となる廉相九。その他、当時のあらゆる代表的な階層男女が、主観的に当時の「時代」と「人生」そして「土地」を語り、行動し、生きるのである。面白くないはずがない。
あの時(2012年夏の旅)に漫然と眺めていた筏橋の山々が、この小説を読むとまた違う景色で迫ってくる。