ヒトの狂犬病 忘れられた死の病 みんなのレビュー

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投稿者：木村　智博　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　海外旅行ブームは衰えを知らず，老若男女，世界各地に足を運んでいる。その裏でわが国には見られない病気に感染したり，罹患するケースも珍しくない。マラリアなどは認知度が高く，予防接種を受けるが，狂犬病については考え付かないのではないだろうか。しかし，世界の多くの地域では依然，狂犬病が存在し，毎年，犠牲者が出ている。こうした状況を憂慮し，狂犬病に造詣が深い医師の手によって一册の本が執筆された。著者が「現役の医師でも狂犬病の予防や診断に関わっている人は少なく，ほとんど認識がない」，と実情を明かす。いわんや，一般にはほとんど知られていない。
　「予防は可能だが，治療はできず，発病すれば死に至る恐ろしい病気」，これが狂犬病の全容である。わが国では飼い主の協力で狂犬病を根絶できたが，海外では事情が異なる。野良犬が多く，狂犬病に感染した動物（猫など）も存在する。日本人旅行者がこうした動物に咬まれるケースもある。本書によれば，タイなどでは予防機関があり，日本人が医療機関で受診する場合もある。狂犬病に悩める国々を旅行する際，無防備では都合が悪く，むやみに動物に手を出さないよう，警告している。
　本書は医学書に見られる症例研究を取り上げているが，全体的には記述が平易で，臨床医，保健所関係者をはじめ，旅行業に携わる人，海外旅行を予定している人，さらには日本国内にも狂犬病に感染した動物が持ち込まれていないと断言できないことから，各家庭に常備したい本である。
　まず，狂犬病の流行状況・疫学，感染経路（咬傷，経気道感染，移植，経口感染，母子感染など），病理学的知見，咬まれる前の予防法・後の発病予防法などを解説する。さらに動物の狂犬病にも紙幅を割く。一方，根本的な対策が不可欠となり，タイ，中国，ネパールなどでの流行阻止に向けた取り組み例を紹介する。最後にわが国における今後の対策を述べる。全編にわたり，予防に向けた熱いメッセージが感じられる。
(C) ブッククレビュー社 2000