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紙の本

心の成長

2001/05/20 17:23

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:seimei - この投稿者のレビュー一覧を見る

 偉大な弁護士である父親の元、大手法律事務所でぬくぬくと暮らしてきた主人公ピーター・ヘイルは、自らの無知と過信からミスを招き大事な訴訟に惨敗。人間的に根本的な自己への甘さを持っている息子に父は最後のチャンスとしてオレゴン州の片田舎であるウィタカーで公選弁護人をしている友人の元で修行させることを命じる。
 その頃ウィタカーでは連続殺人事件が起きており、一人の女子大生の殺害容疑に知的障害をもつ青年ゲイリーが起訴される。ロー・スクール時代の友人スティーブと再会し、その妻ドナと弟であるゲイリーと事前に知り合っていたことと、この裁判から得られる名声と富に目が眩みピーターは弁護を引き受けるのだった。
 主人公ピーターの自己中心ぶりとその甘さにはほとほと愛想が尽きるといったことが中盤まで続き、とてもいらいらさせられる。知的障害をもつゲイリーを誘導尋問によって起訴に持ち込んだ警察のやり口、弁護側の全く捗らない捜査など、もどかしい展開が続くが、物語の三分の二が過ぎた頃から俄然急展開を始める。
 ピーターが次第に自分のみの利益という視点を捨て、事件にのめり込み、心からゲイリーを救いたいと思う心の成長がこの事件に張り巡らされた罠を暴き出していく過程がとてつもなく巧い。登場人物が著者のエンターテイメントとしての駒としてしか描写されていないなど、批判する余地はいくらでもあろうが、面白かった、素直にそう言える物語だといえよう。

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