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筑波大学名誉教授村上和雄のナイトサイエンス教室 1 生命の意味 みんなのレビュー
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紙の本
科学はむずかしく敷居が高いと考える人でも気軽に読める,ゲノム研究で知られる学者の生命論,人間論
2000/12/16 21:16
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投稿者:竹島 愼一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アルキメデスがローマの公衆浴場で“浮力の法則”を発見したとき,喜びのあまり,裸のまま街なかを走り帰ったというエピソードは有名だが,科学の発見がかくもエキサイティングなのに比べ,どうして学校の理科はおもしろくなかったのか。
それは「結果」だからとこの本はいう。教科書にはないほんとうにおもしろい科学とは,思いがけない出会いや,直感,ひらめきといった「プロセス」にこそある。前者(「結果」)の論理的な面を昼の(デイ)サイエンスというのに対し,後者を夜の(ナイト)サイエンスといい,こちらは主観的で想像力豊か,霊感の世界とも通じているという。これを学校で教えないから,理科に限らず勉強は,しちめんどくさくてつまらなかったのだ。
著者は,高血圧の黒幕である「レニン」という酵素の遺伝子解読に成功した分子生物学者の村上和雄・筑波大学名誉教授で,聞き役=この教室の生徒役は,科学哲学者の竹内薫氏。ふたりとも科学を楽しいもの,人に語って聞かせるのがすばらしいものだと信じているから,語る言葉も説明もやさしくわかりやすい。何というか,酒の席で語り合っているのを隣席で聞いている感じとでもいうべきか,なごやかな雰囲気がそこにはあり,これもナイトサイエンスと呼ぶらしい。
テーマもひと味違う。遺伝子から問う生命の意味といったものなのだが,興味を引くのは,科学者の立場にありながら,生物を生かし,宇宙の根源にある解き明かすことのできない神のようなものがあると言い切っているところで,村上氏はこれを「サムシンググレート」と呼ぶ。
遺伝子というと,親から子に伝えられるDNA暗号だというように静的にとらえられがちであるが,環境で人生が変わったり,努力して成長するところまですべて設計図に描かれているとは考えがたい。それについては,酒に弱い人が次第にアルコールが分解できるようになる例をあげて,「遺伝子のオン・オフ」というものが働くのだと説明する。
科学にも創造にも,運命的な出会いや不思議なつながりというものがつきものだが,これも「サムシンググレート」という概念を拝借できそうだ。運命はあらかじめ決められている,というより,遺伝子だけでは解明することのできない,人間の能力を超える宇宙の意思が,その人を生かそうとしてくれている。そう考えることは非科学的だと一概に黙殺できないような気がする。
というより学問とは,人や,もっと大きく,生命すべての幸福を願わずにいられないもののはずであるから,その根源の意味について思いを馳せないものは,学問とはいえないのではなかろうか。「わたしは神の考えを知りたい」とアインシュタインは語り,宇宙から地球を見たアポロ9号の飛行士は神秘に打たれて詩人の言葉を口にしたというが,この本には,従来の権威=デイサイエンス“信仰”への(軽い)プロテストという意味合いが込められていそうだ。
(C) ブッククレビュー社 2000
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