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紙の本
8月26日今日のおすすめ書評
2000/11/15 19:00
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤城清治の作品と仕事を集大成
懐かしい。
この表紙を見たとたん、目が釘付けになり、胸の奥がキュッと緊張した。
美しい影絵作家としてあまりにも高名な藤城清治の世界を集大成した『光と影の詩人』の表紙。ほんとうに、見たとたんのことである。
胸がキュッとしたのは、そのモチーフが、幼い頃の甘く優しい思い出とセットになっていたからだ。中央の猫目の、きりりとした小人を初めて見たのは、いつのことだったろう。ポカポカ日溜まりの縁側で、おばあちゃんが読んでくれた『暮らしの手帖』(創刊号から47年間、表紙やイラストを書き続けた)だったろうか? 幼稚園の友達みんなとワクワクしながら見に行ったケロヨンの登場する木馬座の公演(この夏再演されたのを見た方もいるだろう)かもしれない。それとも「赤ちゃんも夢を見るのかしら」という小児薬のテレビコマーシャル(1971年から8年間放映)? いやいや、今みたいにうるさいオシャベリのない、メルヘンな天気予報(テレビ東京、1998年3月まで30年間放映)だったか。
いろんなシーンで、この人の作品を見ていたことを、貴方もきっと思い出したと思う。この本には、そんな懐かしく変わらない宝石のような作品が、数えきれないほど収められている。
影絵の美しさは、黒と白のエッジのくっきりした潔さがかもしだすバランスの妙技だ。それが次第に、色彩をまとい、光源を得てにじみ、艶を帯び、輝くばかりの光が踊りだす、そんな影から光へと進化する作品の変遷が、ページを追って出現する。
中には、我々観客には影に沈んで絶対に見えない、影絵人形の動く仕掛けの写真もある。それは一種はりつめた機能美も感じさせる。
しかもこの本は、単純なアート作品集という枠にとどまらない。それは、藤城清治と一緒に仕事をしてきた何人もの人々の文章が語る、藤城清治の人となりと仕事が、作品に重なるからだ。老境ますます細密な作品を作り続ける彼が、何に夢中になり、何を表現しようとしてきたか。
透過光の描き出す世界の美しさは、パソコンの画面を見慣れている人なら、紙媒体が逆立ちしたって追いつけないのを知っている。が、それだけの魅力なら、今のCGと何ら変わりはない。藤城清治の作品たちには、CGでは絶対に表現できない「いのち」がある。
それは、彼の仕事場の写真をみるとわかる。巨大なライトテーブルで、きわめて厳しい表情で、パーツをひとつひとつ、カミソリで切り出しているシーン。デザインをやったことがある人なら知っていると思うが、ライトテーブルは強力な熱源を仕込んでいるため、熱を発する。手を置くと暖かいのだ。この暖かさを、彼の作品のどれもが宿している。猫や金魚や無数の生き物と暮らしながら、作品を作り続ける光と影の詩人の熱。
「最近は印刷もよくなって、影絵独特の光のムードや、やわらかな美しさ、優しい雰囲気をだせるようになったが、なお原画の美しさを完全には再現できていない。でもぼくはこの頃それでいいと思うようになった。印刷は原画のよさの片鱗が伝えられればいいし、その印刷されたものをみているうちに、原画の無限の美しさが想像されにじみでてくるようなもので、本来あるべきではないだろうか」(37P)と、藤城清治のことばが引用されているが、まさにそれ、『光と影の詩人』がにじみでてくる本、なのだ。(波多野絵理)
○藤城清治のブックリストはこちらへ
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