紙の本
グロテスクの妙味
2000/10/05 15:07
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投稿者:藪下明博 - この投稿者のレビュー一覧を見る
小林泰三といえばホラーよりも、むしろその変態的なまでにドロドロと描写された“グロテスク味”に一目置きたい作家である。書評子は、第二作品集『人獣細工』を読んだ時に、思わず“いけない躍動感”を憶えてしまった。変格ホラーを偏愛する読者ならば、きっと思い当たる節があるだろう…。
さて、本書にもこの躍動感溢れる(?)グロテスクの醍醐味が存分に用意されている。表題作「肉食屋敷」及び「ジャンク」の二編がそれである。とりわけ「ジャンク」は、シュチュエーションそのものが異形で(うーん、井上雅彦監修の『異形コレクション』に収録されるのも頷ける)、B級映画よろしく、ジャンク屋、ハンター・キラー、売笑婦といった、いかにもそれらしいキャラクターがワンサカ登場する変格ウエスタンものである(おまけに臭いエンディングが嬉しい…)。この大袈裟な筋立ては、まるで牧野信一の「インディアンもの」を髣髴とさせ、ジャンルがホラーでなければ“幻想文学”の金字塔として後代に残る特異作であろう。
「肉食屋敷」は、異星から隕石とともにやって来た地球外生命体を、クローンとして現代に復活させてしまうという、これまたB級バリバリの筋立ての作品。しかも、屋敷全体が怪物なのだとする、思い付いても中々書くのに躊躇する発想を、見事に実現化した作者の勇気には心から敬意を表したい。
「妻への三通の告白」は、ピュグマリオニズムを扱ったもので、内容は乱歩の「ひとでなしの恋」に近く、プロットは久作の「瓶詰めの地獄」に近い力作である。しかし、手は込んでいるものの正直言って新鮮味に欠けるのが少々マイナスである。
「獣の記憶」は、多重人格を扱ったミステリーで、巷のそれとは一線を画するどんでん返しに気負いが感じられる。とにかく、捻り度は本書中NO.1の秀作である。
とまぁ、以上四篇を収録したものだが、作品の出来・不出来があるものの、本書は小林泰三の多彩振りを十二分に伺える好短篇集である。書評子としては、今後も更なる“グロテスク”の妙味に磨きを掛けて頂きたいと思うのだが…。
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やはり氏の頭は計り知れない!!引き込まれる。。その世界が恐ろしい分入り込む。しかも後味がいいのがよい。
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グッド。
表題作「肉食屋敷」は圧巻。
だけど印象深いのは「獣の記憶」。
作者はホラー、SF、に加えミステリまでも書くのかと。
しかもただのミステリではなく、奇妙にひん曲がったミステリなんですよ。
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恐竜時代に隕石とともにやってきた地球外生命体を復活させてしまった小戸博士。表現のグロテスクさもすばらしいが、自分が殺されていることに最初は気づかないという結末部分が面白い。そのために、その生命体を殺すシーンがリアルに描かれる。
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このひとの頭はどうなってるんだ…奇想天外だわ、ほんと。
「妻への三通の告白」、これが一番印象に残った。人が壊れていく様が怖かったなぁ。
モンスター/迫りくる恐怖ならば、表題作。
色んな怖さを描いてくるなぁ。それでいて「海をみる人」にあげられるように切ないSFものもある…幅があるなぁ。
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気持ち悪かった。。忍び寄る恐怖と言うよりは、何これ?見たいな想像力を必要とするみたいな。。。
小林さんの本は初めて読みましたが、読みやすく、どんどん展開する。でもそこに想像力が必要となる。
主人公の公務員がなんとなく生きててなんとなく行った幽霊屋敷。そこで遭遇した何かのせいで逃亡の日々を余儀なくされる。。
そういうところは怖かった。。。。
いきなり自分の知らない世界を見せられてそしてもう自分の世界へは戻れない。。。そうなったらと考えるととても怖かった。。
その後、主人公は?人類は?と本なのに心配してしまった。(笑)
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表題作はスタンダードなホラーだが、理路整然としている点でSFとしても読める。「ジャンク」はグロテスクな世界観だが、叙述トリックとでも言おうか、意外な秘密が隠されている。「妻への三通の告白」も読み進めるにつれてぞわぞわと来るホラーだが、これも叙述トリックと呼べる代物が仕込まれている。最後の「獣の記憶」は、勘のいい人はすぐ真相に気付くと思うが、これも叙述トリック系のミステリーでありホラーだ。「妻への三通の告白」は初めて読む人には結構インパクトが強いのではないかと思う。
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ミステリ読みとしては、ひねりのきいた『獣の記憶』も好みですが、『ジャンク』、『妻への三通の告白』も良かった。(ジャンルはホラーなんでしょうが、ミステリとしても楽しめますね)
表題作『肉食屋敷』はクトゥルフ神話好きならニヤリって感じで、これはホラー作品としてかなりお気に入り。オチも素晴らしい。
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肉食屋敷 / 初出 S-Fマガジン 1998年9月号 (「脈打つ壁」 改題)
ジャンク / 初出 『異形コレクションⅥ 屍者の行進』 廣済堂文庫 (1998.9)
妻への3通の告白 / 初出 小説NON 1998年5月号
獣の記憶 / 初出 小説現代 1998年5月号増刊 メフィスト
単行本あとがき
解説 「小林泰三はぐふふふ……と笑う」 (田中啓文)
『肉食屋敷』 1998.11 角川書店刊 文庫化
photo/Barros&Barros -The Image Bank
P.LOBO amana images
口絵 村上光延
装幀 田島照久
カバー印刷 暁印刷
印刷 暁印刷
製本 千曲堂
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とても読みやすかった。
「肉食屋敷」はニヤッとさせられた。
「ジャンク」は設定が斬新でニヤッと。
「妻への三通の告白」は時系列さえ把握すればなかなか。
「獣の記憶」内容自体はすごく面白かったんだけど、オチがイマイチ把握できない?
分かるけど理解できないみたいな。うーん。
たぶん先入観が邪魔をしているのかな。
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ジャンルの違う4種類の短編小説が詰まっています。
1つ目は表題の「肉食屋敷」で、SFホラーというかコズミックホラー。
ジュラシックパーク的に古代生物を復活させたつもりが、宇宙人を復活させていたいう話です。
宇宙人というか、旧支配者ですね。
「千の仔をはらんでいる」というセリフがあるので、シュブ=ニグラスが元ネタかと。
最後のオチも良かったです。
2つ目は「ジャンク」で西部劇
ゾンビ話ですね。
ライトノベル的展開にも思えますが、一筋縄でいかないのがこの作者の面白いところ。
人体をリサイクルするっていう世界システムは面白いデス。
そして主人公は実は…っていう、作者定番のオチではあるんですが、結構やられました。
3つ目は「妻への三通の告白」で、サイコホラーです。
タイトルからある程度の話の枠は検討がついていましたが、でもやられたっていうところでしょうか。
現在から過去に進んでいるはずなのに、すでに過去に壊れていたとかなんとか。
4つ目は「獣の記憶」でミステリー・ホラーというところでしょうか。
多重人格の殺人者の話…っぽいけど、そうでは無いのが面白い。
最初の「マスキング効果」がオチにはられた伏線だとは思いもよらなかった。
これは本当にやられたと思いました。
殺人事件が発生した時に、12時に家を出て、1時を過ぎて病院に居たのに、1時に大騒ぎしているという大家のクレームからちょっと違和感を感じて居たら、やっぱりそこはおかしいということで、犯人の穴になってたみたいです。
ただ、犯人の想定はさっぱり出来ませんでした。
ある意味、叙述トリックに近いのかな?
東野圭吾の「ある閉ざされた雪の山荘で」みたいな感じで。
ともかく面白かったです。
引きこまれて先を先をという感じで読んでいきました。
オチで一気にひっくり返すというパターンは非常に大好きです。
やられた!っていうのが、爽快というかなんというか、読後感をスッキリさせてくれます。
非常に堪能出来ました。
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“わたしは歪みに足をひっかけないよう注意しながら、ゆっくり奥へと進んだ。
二、三メートル進んだところで、壁に絵がかかっていることに気がついた。表面に盛り上がりがあるため、油絵だということはわかったが、まるで水墨画のようにモノトーンの濃淡だけで表現されている。現代美術の一種なのだろうか?題材はおそらくムンクの「叫び」のパロディーだ。苦痛に苛まれている男が描かれている。全体に流れるように歪んだ構図もムンクそのままだ。ただ、変形の度合いはムンクよりも激しい。右目の位置は額の真ん中近くなのに対し、左目は頬の辺りまで下がっている。左耳はなんとか判別がつくが、右目の下にあるのは鼻なのか右耳なのかもわからない。ほとんど縦になった唇から覗く歯は全部尖っており、明らかに本数が多すぎた。それどころか、顔のあちこちから、歯が無造作に生えている。指の数は右手に三本、左手に二本だが、それぞれ肘や二の腕にも何本か指がある。服は着ていない。背骨は筆記体のWのような形に折れ曲がっている。生殖器と脚の区別はうまくつかない。全身のあちらこちらに瘤があるが、顔のようにも見えるので、人面疽のつもりかもしれない。「叫び」の場合、人物の背景は橋のようなものと流れる空もしくは川だったが、この絵の背景は何が何だかよくわからない。顔を近づけ、じっと見て初めて、男の身体の各部分が何重にも重ね描きされ、流れるような高価を生み出していることがわかる。”[P.13_肉食屋敷]
「肉食屋敷」
「ジャンク」
「妻への三通の告白」
「獣の記憶」
ぐちょねちょ。
怖いのに面白いから止まらない。
乾ききった地面の上に放置されたまだピンクのみえる肉の固まりから得体の知れない液体がじわじわと染入る感じ。
“さて、私が、小林泰三がすごいと思うのは、彼が「二足の草鞋」の人だからである。会社員と作家の、という意味ではない。ハードSFとホラーの、である。
彼はSF専門誌(といっても一誌しかないが)には、一般人が逆立ちしてもわからないような難解な、最先端の科学知識をもとにした、マニアックなSFを書く。また、SF作家の集まりでも、「シュレディンガーの猫」がどうしたとか「ラグランジュ点」がどうしたとか「何とかの何とか軌道が何とか」とか、同業者である私すら理解できないような科学の話を滔々と語ってやまない。つまり、かなりハードコアのSF者なのである。ところが、一般文芸誌やアンソロジーなどに書くとき、彼の作風は一変する。日常の些細なできごとからはじまり、それが変容し、ついには自分自身の存在が信じられなくなり、現実と虚構の別がなくなっていく……というような、誰もが共感でき、恐怖と戦慄を覚える物語を書くのである。そこには、彼が日頃好んで口にする先端科学はまるで登場しないか、もしくは形を変えてどこかに忍び込ませてある。要するに彼は新のエンターティナーであり、小林泰三がカルトな作家ではなく、広く一般の支持を受けている理由はそこにあると思う。そのことは、私はくどくど言わなくても、この短編集に収録されている各編を読めば明らかである。”[P.214_解説 小林泰三は、ぐふふふ……と笑う 田中啓文]
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「ジャンク」人体をロボット的な扱いで書くとこういう事になるんだろうか.たぶんロボットが「ロボットのパーツを単なる部品として扱う物語」見るとこういう気持ち悪さを感じるに違いない「妻への三通の告白」"ぼくはじんせいにかった"でゾッとした
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小林泰三五冊目。
コレは久々の大ヒット!
短編、4編収録で、その4編ほぼ全てのオチが大好物という極々マレな一冊。
収録順に感想を……。
「肉食屋敷」SFホラーかつ、特撮怪獣モノ的な1編。コレ、ドコかで読んだ記憶があるんだけど、何で?何時?等々は一切覚えていない。オチまでは確信持てずにいたが、大好物のオチなので、思い出した感じ。ソレ位好きなラスト。
「ジャンク」コレは北斗の拳とかマッドマックスⅡ、Ⅲ(実際はソレより進んだ)未来ウェスタン的世界観。短編の中に伏線が張り巡らしてあるので、クライマックス~ラストは爽快さすら感じる。
「妻への三通の告白」速攻、二度読みしてしまった。死期をむかえた老人のモノから、時系列を遡るように並んだ三通(章)の書簡体。オチ自体はこの4編の中では、オーソドックスな部類だが、ラスト二段落はゾクりときた。
「獣の記憶」コレはミステリーとして面白い。二重人格モノと思いきや、実は……、でも……(あまりネタバレ的にしたくないので伏せ字にしときます)。謎解きとしては、途中で匂わすトコは気付いてたので、やはりって感じ。それでも、伏線の張り方は絶妙。そしてラスト、ハッとさせられる。
ホラーの括りではあるが、細かいジャンルも、設定も異なる短編集で、実に素晴らしい。なので、★は4.5って感じの★★★★☆。
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タイトルのインパクトで購入。
肉食屋敷はほんのりクトゥルー物で嬉しい。
ジャンクは異形コレクションで既読ながら何度読んでも世界観が好み。
他2編はミステリー仕立てでこれまた楽しい。
ホラー、アクション、ミステリー思う存分楽しめた1冊。