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紙の本
考古学者の眼でギリシアの遺跡を散策する
2000/10/23 09:15
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投稿者:井上真希 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ギリシア」と聞いて真っ先に浮かぶものは、神話の世界、そしてアテネを中心とする古代ギリシア文明だろう。ほとんどそれがすべてと言っても過言ではない。
しかし、それも無理からぬことである。オリンピックからしてそうなのだ。
近代オリンピックの聖火は、古代オリンピック発祥の地、オリンピアにあるギリシアの最高女神ヘラの神殿の前で、巫女に扮した女優の手で太陽光から採火され、開催都市へとリレーされている。先日のシドニー大会の閉会式には、その古代ギリシアを彷彿とさせる白衣の女性たちが現れ、次回の開催地アテネを幻想的に印象づけた。聖火リレーが始まったのは第11回のベルリン大会からのことだが、開会式のクライマックスで演奏される「オリンピック賛歌」は、第1回大会が1896年に当時のギリシア王国の首都アテネで開催された時に初演されたものだという。
そうして紀元前776年に創始された古代オリンピックの古(いにしえ)の不滅の精神を掲げて、近代オリンピック競技が行われていることからも、著者によれば、近代のギリシア人は、西洋文明の古代を形成する古代ギリシア人をアイデンティティの拠りどころとしており、とりわけ、紀元前5世紀から前4世紀前半にかけての、数多のポリスのなかでもアテネのギリシア人を、誇るべき祖先として念頭に置いている。
とはいえ、ギリシアには、当然、それ以前にもそれ以後にも文明は存在し、時代ごとにさまざまな都市を舞台にして繁栄をみてきた。
本書は、ギリシアの4ヶ所の遺跡の発掘に参加し、近年はトルコのビザンティン遺跡、ギリシアのデルフォイといった古典古代遺跡の調査に従事した著者が、時間と空間のマトリックスによってギリシアの諸都市を選び、歴史の流れのなかで、ギリシアの各地で文明が生まれた様子を俯瞰したものだ。
新石器時代のディミニ、青銅器時代のクノッソス、アルカイク時代のラトーを経て、誰もが知るクラシック時代のアテネから、ヘレニズム時代のプリエネ、ローマ時代のコリントス、ビザンティン時代のゲミレル島、ポスト・ビザンティン時代のイラークリオンに至り、新古典主義建築の出現によって古代に回帰したかのような近代のアテネで締めくくられている。
ギリシアという大きくて深い樽のなかのあちこちで、沸々と発泡が繰り返され、ひと言では表現できない味わいの酒が醸成されてきたことがわかる。
それぞれの都市を訪れて散策する際に出会う建築、彫刻、地形などの詳細な記述、そして、そこから文明の特色や人々の生活の痕跡を探るためのポイントの解説が網羅された本書の情報をもとに、過去の光景を自分の脳裏に描きながらギリシアを旅したなら、遺跡めぐりが考古学者の眼で楽しめるに違いない。 (bk1ブックナビゲーター:井上真希/翻訳・評論 2000.10.23)
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