紙の本
近くて遠い遺伝の解明
2008/08/21 12:53
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kokusuda - この投稿者のレビュー一覧を見る
遺伝はSFなどに登場するだけでなく、大昔から
よく知られた現象でした。
産まれた子供が親に似ている。
人間から人間が産まれ、馬から馬が産まれる。
親の特性が子供に受け継がれているのです。
しかし、身体的、構造的に似ていることが心理的、知的に
似ていることになるのでしょうか?
それ以前に遺伝や心の本質とは何なのでしょう?
著者の安藤氏は行動遺伝学、教育心理学の立場から
知能と遺伝の関係を研究しています。
具体的には一卵性双生児と二卵性双生児の行動や能力を
調べ比較することによって心理や知能に対する遺伝や
環境の影響を調べているのです。
生命には個体差があり、特に人間は知能において同一例が
発見されないほど互いが異なっています。
個別に調べても他の例には当てはまりません。
そこで数学(統計)的手法を利用して研究を進めます。
個別では判明しなかった事実が多くのデータを集めることで
見えてくるのです。
実際には、この研究分野は数多くの難問を抱えています。
統計学的手法導入の是非、研究結果が人間の価値を決定
してしまうのか?など倫理的問題。
それ以前に知能とは何なのか?
遺伝によって生命の機構がすべて決定されるのか?
これらの問題点や前提が明確にならないまま見切り発車した
研究分野のように感じられます。
歴史的には19世紀のダーウィンの進化論から、
ゴールトンの優生学、メンデルの遺伝学や医学、生物学、
最新の行動遺伝学や分子生物学などまで様々な研究分野が
登場してきています。
遺伝がいかに複雑なシステム(仕組み)かが判明すると
同時に数多くの謎も発見されてきたのです。
現在も多くの研究者たちが様々な視点から謎の解明に
挑み続けているのです。
本書は私たちの頭の中で遺伝と環境が、どのように
影響を与えているのか?遺伝とは何なのか?
人間の心理、知能とは何なのか?などの一端を
垣間見せてくれています。
科学的な興味を持つSFファンだけでなく、小さな子供を
持つ親や教育関係者などにも読んでほしい本です。
SFファンにもメンデルの遺伝三法則くらいは
知っていて欲しいものですが、一歩進んで遺伝が知能に
及ぼす影響についても考えて欲しい気がします。
教育などの環境も大切なんですが、、、。
紙の本
遺伝観の見直しを迫る意欲作
2000/12/14 09:22
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:三中信宏 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、新たな「人間行動遺伝学」がもたらした研究成果を踏まえて、社会に広がっている「遺伝観」の見直しを求める。研究の方法そのものは高度に統計学的な技法が要求されるが、本書のスタイルはそれをよく噛み砕いて伝えており、一般向けの啓蒙書として適切なレベルだと私には感じられた。
知能・性格・心理などの行動形質を量的遺伝学の立場に立って、その遺伝要因と環境要因さらには両者の交互作用の効果を解明するという方法は、進化生物学や応用育種学ではすでに広く適用されてきた。とりわけ、最近の心理測定学では、共分散構造分析(構造方程式モデリング)が複雑な多変量行動形質の統計解析法として広く用いられるようになってきた。
「心の遺伝」を論じることがともすれば「遺伝決定論」とか「優生主義」というレッテルを貼られてしまうことを十分に意識している著者は、行動遺伝学の基本的な考え方を慎重に議論していく。進化学の祖チャールズ・ダーウィンとそのいとこである優生学の祖フランシス・ゴールトンから説き起こし(序章)、量的形質の遺伝メカニズムとその測定法を説明する前半部(第1〜2章)は、よくまとめられていると思う。
このあたりまで読み進むと、行動遺伝学の過去の【汚点】−データ捏造や人種差別−に向けられた批判者の全面的攻撃に対して、著者がどのように対面しているかが見えてくるだろう。IQ論争におけるスティーヴン・グールドの主張(たとえば『人間の測りまちがい』河出書房新社を見よ)は反論の典型例である。グールドはスピアマンの一般知能因子(g)や因子分析で構築される因子が「統計学的な artifact」に過ぎないことを理由に、知能遺伝論を反駁するという戦略を取っている。
著者はグールドのこの戦略は「人間の心理的形質の遺伝の問題をイデオロギー論争の中に位置づけようとする人のとる常套手段」(p.94)であると批判する。しかし、統計学的に構築された因子の reification の危険性はつねにあるわけで、相関係数や因子をあたかも【実在】するかのように述べることがまちがいであるというグールドの指摘は基本的に当たっていると考える。
むしろ、著者はグールドが攻撃対象としたような心理統計分析の手法はその後新たな方法論によって置き換えられ、あるいは修正され、グールドが批判するような欠点は現在では解決されているのだと述べた方がより説得力をもったのではないかと私は感じた。もちろん、本書のような一般向けの本の中では、統計学的な詳細を議論するスペースはきっとなかったのだろうが。
第3〜5章にかけては、創発的遺伝(3−4節)や環境概念の再検討(5−1節)などさまざまな実例を通して遺伝と環境との関わりを説明する。「遺伝と環境をお互いに両立しない二律背反のように考える癖」(p.155)をえぐり出すことで、「遺伝観の再考を促す」のが本書のもう一つの大きな目的であることを読者は知るだろう。
第6章は、著者自身の双生児研究に基づく事例が紹介される。「教育とは人間の遺伝的制約を“乗り越えて”、環境によって人間の可能性を開花させることではないということだ。遺伝的な条件を背負う人間に対して、その遺伝的条件の発現の場を与えているのが教育なのだ」(p.211)という著者の結論は、当然の帰結だと私は感じるが、それでもなお議論の火種となるだろう。最後の第7章では、社会に広まっている「遺伝観」が「貧しく」しかも「硬直している」ことに対し、強い懸念が表明される:「人間の心理的形質に遺伝的影響がある」という命題は、冷静に考えてみれば実に当たり前のことなのである。むしろこの当たり前の命題が、素直に受け入れられていないことの方が問題なのである」(p.217)。この一文は、むしろ本書の冒頭にあるべきだっただろう。
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おもしろかったーこれ! 確かに新書にしとくの惜しいわ。
「行動遺伝学」っつーのの本で、一卵性双生児と二卵性双生児とふつーの人とを比べながら、遺伝の影響と環境の影響を測ってみよう! という学問。双子の研究は事例集めるの大変だし、倫理的な問題もあったりするので難しいと思うけど、それだけにとても有意義。優生論の絡みもあるし、教育論の絡みもあるし、おとーたん、おかーたんの気になるところでもあるし。
行動遺伝学の事例で有名なのは、オオカミに育てられたふたごの「アマラとカマラ」のお話。環境も教育も大事だよねという結論に導くためによく引用される、それはそれで正しいと思うけれども、そもそも「才能」「資質」がなければ教育も環境も無駄になる。教育者や親をやる人には、才能や資質を見抜く力が、まず求められる、みたいな話。
英語の授業の実験で、双子ちゃんをたくさん集めてやった話が面白かった。
いわゆる講義形式と、おしゃべりを通して学ぶ形式を、たくさんのふたごを2つのクラスに分けてそれぞれ学ばせて、結果を比較する。それぞれの授業形式の特性がはっきりと出てて面白い。結論は、「どっちもいいところがある」「子供の気質にあわせるべき」みたいなこと。そらそーだよな。
検証しましたというには被験者の数が少ないのかも知れないけど、あんまり欲張り言えないだろうからなーこの分野。
はぁ、久々にあかでみっくなご本読んじゃった、少しはかしこくなったかしら。
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【目的】
【引用】
【感じたこと】
【学んだこと】
新しい環境が新しい遺伝的素質を開花させる。
資質に合った役割を。
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心は遺伝するか。
本書はYESと答える。
一卵性双生児などの統計的な検査が根拠だ。
資質が共通していることが非常に多いという。
ただし、運命決定論ではない。
遺伝がすべてではない。
たとえば、親の資質がそのまま子どもに遺伝するわけではない。なぜなら遺伝するのは遺伝子であり、それ自体ではなく、その組み合わせが意味をもつものであるからだ。
ここからたとえば、「適性が違えばそれにあった教育環境は違う」などの知見に結びつく。
人は一人ひとり違うのだから、その人自身をしっかり見つめなければならないという、いってみれば当たり前のことを再確認。
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行動遺伝学の入門書。一卵性双生児に関する統計調査の重要性が強調されています。統計データの解釈に関わる部分でもありますので、取り付きにくいところもありますが、なかなか興味深い結果がたくさん紹介されています。
著者の主張は全くマット・リドレーが『やわらかな遺伝子(原題:Nature Via Nurture)』とほぼ重なるように思われます。知識能力や性格などは遺伝的要素が高いのだけれども、その発現は教育を通して顕れるのだということを強調しています(そう記述する動機はよく分かります)。いくつか参考文献が最後に挙げられているのですが、それなりに売れているマット・リドレーの著作が挙げられていないのは残念です。
また、『心はどのように遺伝するか』は疑問ありです。必ずしも心が"遺伝"するわけではない、というのは著者の主張だと思いますので。
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[ 内容 ]
ヒトゲノム、クローン技術と、21世紀は遺伝子の時代に突入しようとしている。
そしていま一卵性・二卵性双生児の研究から、身長や体重だけではなく、IQや性格への遺伝的影響も明らかになってきた。
遺伝子はどのように人間の心を操っているのか?
遺伝をめぐるさまざまな誤解を解く「心と行動の遺伝学」。
[ 目次 ]
序章 偉大ないとこたち
第1章 遺伝のメカニズム
第2章 遺伝を測る
第3章 遺伝の多様性
第4章 遺伝のダイナミズム
第5章 遺伝から観た環境
第6章 遺伝と教育
第7章 遺伝の意味論
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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心を働きと捉え、心は遺伝的であることを言っている。人間の心理現象も生命現象の一部なのだから、遺伝するのは当然だと言えるのだろう。運命論的遺伝観を否定し、教育や環境の重要さも説いている。
遺伝を決定論者的に解釈するのではなく、自然なものとして素朴に受け入れ、自分にとって有益な情報とし、生きてゆくために学ぶべきこととをして捉えられるきっかけになると思います。
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遺伝子はその人の在り方を決めるわけではなく、その人の生き方が遺伝的特徴を発現させる。ということが印象に残った。遺伝的情報は水の流れる谷のようなものであり、ある方向に流れやすくなっているというイメージ。(ウォディントン)
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違う環境で育った「一卵性双生児」と「二卵性双生児」の違いを比べる事によって「何が遺伝的に決まるのか」を調査した結果が書かれている。 心情的には「肉体的特徴」が遺伝で決まるのは納得できるが、「精神的特徴」が遺伝するのは認めたくない。しかし、実験結果的には多くの「精神的特徴」が遺伝により決まるという。本書には具体的にどの特徴が遺伝してどの特徴が遺伝しないかなど詳しく記されている。遺伝に興味がある人には必読な一冊。
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安藤寿康先生の一般書デビュー作(のはず)。すごく分かりやすく面白く遺伝と双生児研究の話がまとめられている。最後の方の、安藤先生ご自身の博論の内容をまとめた章もすばらしい。「遺伝」とか「双生児研究」に興味のある方は、安藤先生の近著も良いけど、この本もぜひ。なんでしょう。2010年代の本よりも、もっと臨場感の溢れる感じがあります。
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すごく分かりやすくて面白かった。
肉体的、精神的なものが遺伝するのは事実であり、そのような主張が人権侵害にあたると非難するのは、キリスト教信者が地動説を否定するようなものだ。でもそれは親子がそっくりになるという意味ではない。
鳶が鷹を産むのも、蛙の子は蛙なのも、遺伝であり、しかし、鷹も蛙も周りの環境と努力で将来どうにでもなれる可能性はあるのだ、という、まったく非センセーショナルな内容だった。
遺伝子の組み合わせの話は、「ひとりひとりがかけがえのない存在」という主張をはじめてピンとくるものにしてくれた。
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専門的な内容で、ちょっと読みたいだけの自分はかなり読み飛ばしてしまった。もう少しざっくりした内容の本を探すことにする。
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人間の心と行動の遺伝を研究する人間行動遺伝学をわかりやすく解説していた。遺伝学ときくと、農学ないし分子生物学でのシーケンサーを使ったDNAを分析することが頭に浮かぶ。しかし本書は、統計的手法を用いた心理学や教育学のアプローチで書かれていた。この意味で個人的には、遺伝学を少し身近に感じることができた。
双生児をサンプルとし、一卵性と二卵性との間の特徴の異同が分析が主となっている。なおこの前座として、IQの相関係数の中央値が、一卵性双生児、二卵性双生児、きょうだい、親子、親・養子の順で高くなっていることがまず紹介される。
社会的関係性の分析は興味深い。上司からのサポート、自律的な関わり、プレッシャーの側面、親からのあたたかさは遺伝的規定性があるという。
遺伝的な条件を加味した上で、活動の場を与えて発達を促すことが理想だということは発見だった。つまり、教育や環境だけでは解決できない問題を、冷静に整理できるということである。
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やはり内容が多少古いのかもしれない。エピジェネティクスについては、まだ研究が進んでいなかったという事か。