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紙の本
ついこのあいだ『ロリヰタ』を絶賛した舌の根も乾かないうちに、傑作、けっさく、ケッサクと騒ぐのもなんだけれど、ナンナンデス、本当に
2004/06/01 20:45
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの、嶽本野ばらの小説デビュー作とのことである。140ページにも満たない、ちょっとバイオを思わせるようなブルーグレーのカバーの本は、その文字だけが浮かび上がった端正な佇まいが、どこか少女たちが書き込みをするおしゃれな「白い本」にもにて、思わず手をのばしたくなるようなものである。
版型は違うけれど、私が真っ先に連想したのは新潮社から出ているマーティン・デイリー&マーゴ・ウィルソン『シンデレラがいじめられるほんとうの理由』である。シリーズのほかの本も、書棚に並べたくなるような、洒落たタイトルと色合い。どれも、80頁程度の、思わず手にしたくなるような装丁の、物理的に軽い本。でも、内容は本格的。羊の皮をかぶった狼とは、こういうのを言うのではないだろうかと書いたが、この『ミシン』もそれに引けはとらない。ついこのあいだ『ロリヰタ』を絶賛した舌の根も乾かないうちに、傑作、けっさく、ケッサクと騒ぐのもなんだけれど、ナンナンデス、本当に。
で、この本はふたつの小説「世界の終わりという名の雑貨店」と表題作「ミシン」からなる。ショッキングさでいえば、「ミシン」なんだろうけれど、切ない恋物語が好きな私には、ちょっと長めの「世界の終わりという名の雑貨店」がいい。なんだか、村上春樹の有名な作品を思わせる、この話から簡単に紹介しよう。
とはいえ、ネットでも嶽本自らが自作の内容紹介をしない方針らしいので、あくまで彼に敬意を表してほんのサワリだけではある。舞台は京都、四条富小路を下がった路地に面した4階建の雑居ビルにオープンした雑貨店で、主人は多分27歳であろう、もとライターである僕である。で、その人も滅多に訪れることもない店の名前の由来は、Vivienne Westwoodが81年にキングスロード430番地にオープンしたショップ「WORLDS END」に因んでいる。この物語は、そこにやってきた全身Vivienne Westwoodの15、6歳の君が現れたことから始まる。
「ミシン」は、チビでデブでブスで孤独だった少女が吉屋信子の『花物語』を読んで、エスの関係に興味を持ち、高校に入って初めての秋に、TVで死怒摩瀉酢というバンド、そのボーカルをやっていた貴方、美心ことミシンを見て、貴方に焦がれ、会いたい、話したいと思い、貴方と同じMILKの服に身を包むことから始まる。
ともに、悲しい、切ない話である。何故、どうして、と思う。それは『ロリヰタ』を読んだ時と少しも変わることはない。そして、美しいのである。これ見よがしの美文ではない、しかし、簡潔といった文章とも違う、なんともしっとりとした語り口。それが、「死」を核に置いて、美しい物語を紡ぎ出すのである。
ことさらに、嘆こうとはしない。淡々と、それでいて熱を込めて、揺ぎ無い歩調で、他人の声を撥ね付け、今は自分の確信する道をひたすら歩く、そういう「わたし」の話である。決して長い話ではない、しかし、そこに展開する心的光景の広さ、その世界の深さは何に喩えたらいいのだろう。才能とは、恐ろしいものである。
絶賛ばかりでは詰まらないので、ケチを。ただしカバーの話。カバーの背と裏に一センチくらいの丸い白抜きがあって、そこに野ばらのトレードマークが入っている。マーク自身は、悪くない。でも白抜きは、三文判みたいでヒンがない。むしろカバーより濃い青でマークだけ入れたほうが格好いい。たしかに、青い野ばらは存在はしないけれど。
それから、同じくカバー裏のバーコードが印刷されている部分、これも大きく白抜きされている。読み取りを考慮したのだろうけれど、この白抜きもヒンがない。装幀者の松田行正さん、なんとかならんかったすか?
さて、次は嶽本のどの作品を読もうか。
紙の本
読み終わったとき涙がとまりません
2002/01/29 20:06
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投稿者:楓 - この投稿者のレビュー一覧を見る
どうしてもっと早くにこの本に出会えなかったのかと思います。今までに出会った本の中で一番たくさん泣きました。そして、世界で一番読み返す回数が多い本になるであろうと思います。お互いに傷を持った二人の恋の行方を描いた作品です。どうしようもなく惹かれあい、その関係は掛け替えのないものへと進展いってゆきます。しかし二人が選んだのは閉鎖的な恋愛でした。常に現実世界に恐れを抱き、自分の居場所はここにはないのだと恐れおののく登場人物たちの姿は、今を生きるわたし達の不安な気持ちを代弁してくれているようでもあります。ただし、恋愛自体はものすごくピュアで、偽りのないものです。『私は実は、貴方から生まれてきたのではないかと思うことすら、あります。』←一番好きなところを引用しました。主人公はここまで思いつめるのです。こんなにも強く人を愛せるものなのだろうか、と思ってしまうほど。「貴方のことがこんなにも好きだ。」人を好きになるのにはたくさんの理由があると思います。しかし、本当は、本当のところは、理想の関係を突き詰めていったとき、これしか残らないのではないか、読後にそう思いました。