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オーストラリア出身のSF作家グレッグイーガンの短編集。8篇からなる。
8篇それぞれ趣向や時代設定などが異なるが、全部の話に共通する要素が二つあると思う。
ひとつは、「アイデンティティ」とは何か?というか問いかけ。8篇それぞれアプローチを変えながら、そのテーマに対して物語ごとの答えを出していく。
もうひとつは、印象的な終わり方。主人公がカタルシス、決意、絶望といった精神を激しく揺さぶられた瞬間、あるいはそれを象徴する情景描写がなされた瞬間、まさにその瞬間スパッと物語が終わる。好みもあるだろうけど、自分はすごく好きです。
8篇それぞれ物語としての平均値は高くて、どれも面白かった。特に面白かったやつをピックアップ。
「キューティ」…愛玩用の、一種のホムンクルスをめぐる、甲斐性なしの男の物語。設定にユニークさもさることながら、決定的な「ひとこと」に激烈に揺さぶられる男の精神がありありと想像できて…。ちょっと薄ら寒くなるほど。
「繭」…エンタメ色の強い近未来企業サスペンス(?)の形を取りながら、その問題提起はとても哲学的で、深いという。
「百光年ダイアリー」…設定が非常にユニークであるとともに、人間の自由意志について深く問うている物語。
「無限の暗殺者」…いわゆる仮想現実の物語。めっちゃ平べったくいうならば、マトリックスとインセプションを足して2で割ったような感じ。文章がとても映像的かつ、出てくるキャラクターに映像映えするような個性があり、映画化したらさぞ面白いだろうと思われる。
「祈りの海」…表題作にして、一番の力作。遥かなる未来、人類は広大な海洋を保有する惑星コブナントに移住する。過去の人類の遺物のテクノロジーを利用しこの惑星に住まう人々は、自分たちの起源、ルーツについて異なる考えをもち、それぞれ異なる宗教を信仰していた。敬虔な信者である主人公は、惑星の海洋の微生物の研究を進めるうちに、とある真実にたどり着く…。
設定だけで既に面白いし、遥かな未来のユニークな人間社会学的な側面、細かいSF的ガジェットもきめ細やかに描写されていて完成度が高い。〈天使〉〈非物質都市〉などのキーワードもSF的に考察するといろいろ面白そうだが、本作品の中ではほとんど説明されない。それもまた、物語のテーマ性を深める上では魅力なのかな。
今の人間社会でも通ずる、非常に普遍的なテーマではあるのだけれど、SF的な料理の仕方がユニークで、心惹かれる物語でした。
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長編に挫折して以来、手付かずだったのですが。
これはこれは!
しょっぱなの「貸金庫」、読んで終わったところであまりの切なさに鼻の奥がツーン。うそー。自分でびっくり。でもホント。えかったー。
確かに物理弱いとツラいところもあるけどその辺乗り越えてでも読みたいと思わせるところがあり。そういうのナシのも割とあり。
喰わず嫌いを反省した次第。これ読まずに過ごしていたら・・・と思うと勿体無いどころの話じゃなかったわ。理系さんだけには独占させておけませんよ!
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さすが名作。今読んでも全然古くない。
最初の3篇ぐらいは勢いで読めたけれど、だんだん難易度が上がってきているような・・・
好みの問題ですが、表題作はあまり楽しめなかったです。大災害等で自然に戻ったような世界観よりは、現代の面影を残す近未来の方が好きなので。
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「貸金庫」★★★
「キューティ」★★★
「ぼくになることを」★★★
「繭」★★★★
「百光年ダイアリー」★★★
「誘拐」★★★
「放浪者の軌道」★★★
「ミトコンドリア・イヴ」★★★
「無限の暗殺者」★★
「イェユーカ」★★★
「祈りの海」★★★★
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日本オリジナル編集の短編集。これが1冊目になるようだ。解説は瀬名秀明。
他作品の解説でも、本作の解説でも触れられている通り、ほぼ全編に渡り、アイデンティティが重要なテーマとなっている。登場人物は多かれ少なかれ、『自分』というものについて何らかの問題を抱えていることが多い。
個人的に印象的だったのは、『繭』『誘拐』『ミトコンドリア・イヴ』『イェユーカ』『祈りの海』。中でも『繭』で描き出される世界はショッキング。
テーマが共通しているので、あまり一気に読むと飽きるかな~と思っていたのだが、杞憂だったようで良かったw
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小学校の理科の時間に、口の粘膜を綿棒ですくって顕微鏡にかける実験があった。接眼レンズを覗くと、本当に教科書で見たような細胞があった。
「祈りの海」の主人公が覚えた衝撃は、そのときの記憶に似ているかもしれない。
地球とは別の海の星で、主人公の「ぼく」は暮らしている。幼いころにある体験をして、それ以来大いなる女神の存在を信じている。しかし、成長した彼が自らの研究で判明させたのは、その体験が単に微生物の排泄物がもたらす幻覚だったという事実だ。
信じていたものから神秘的な(俗悪な)ヴェールを剥ぎ取られ、主人公の拠り所は一気に瓦解する。
発想の点では、「誘拐」の、「人の心の誘拐」が一番刺激的だった。ただ、ヒューゴー賞を獲ったのは「祈りの海」だというのには納得する。
人は知性という松明で世界を照らしてきた。明るすぎる松明は人自身をも照らしてしまう。暗闇からぬっと現れる顔面像は、人が望むナルシシズムの幻想を少なからず壊してきた。
けれど人は、「祈りの海」の主人公のように前に進める。進むしかない、とも思う。
イーガンのようなSFは、もちろんScienceFictionだけれども、知性を足場に世界を覗きこむことにおいて、現実とあまり変わらないように感じる。この小説の知性の光によって、わたしたちは太陽のもとで腕に走る血管の網目模様を見るように、わたしたちの意識の組み合い方を見ることが出来る。
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#ひとつの短編内でのアイデアの突き詰め方がすごい。平行世界のイーガンたちが、あらゆる可能性を持ち寄って検討したみたい。唸ったのは「貸金庫」「放浪者の軌道」「祈りの海」。
#「誘拐」はこの方法で父母・祖父母を再生させていけば、最終的にはミトコンドリア・イヴまで辿りつけるんじゃない? 自分のファッションが場違いかどうかが進むべき方向の目安、という「無限の暗殺者」には笑った。Tokyo No.1 Soul Setの「Rising Sun」のPVを、このイカれた世界のPVに認定。♪ありとあらゆるものが今姿を変えていく〜
(2009/03/20)
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優れた作品だが読者を選ぶ、私には分かりにくい
表紙 3点小阪 淳 山岸 真編・訳
展開 6点2000年著作
文章 4点
内容 510点
合計 523点
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読んでみたかったグレッグ・イーガンを初めて読んだ。ハードSFの大家の短編集。日本向けに選ばれたらしい。
かなり難しいSFでよくわからないのが多いが、なぜか癖になりそう。
以下は読書メモ:
貸金庫
宿主を転々と移る人。目がさめると意識が違う人に移っている。その間の記憶を書きとめて貸金庫にしまう。そして、名前が死ぬまで変わらないことを夢見る。
キューティ
キューティキット(の安物のコピー商品)で妊娠して、キューティを産む男性。
ちょっと狂ってて気持ち悪い。
ぼくになることを
「宝石」を埋め込んで脳を学習させ、「スイッチ」して永遠の頭脳を得る。自分とは何か。
繭
ゲイ、レズビアン。その発生を胎児期に防ぐ技術。その製品化が繭。
百光年ダイアリー
未来が決定している世界。将来に起こることがあらかじめわかっている。その通りに行動する。未来に従うのも「自由」だ。
…かなり難しい話。
誘拐
妻の身代金要求の映話が突然かかってきた。
スキャン アイランド コピー
放浪者の軌道
アトラクタ(吸引子)
メルトダウン
うーん、よくわからない。
ミトコンドリア・イヴ
量子古遺伝学 量子の相関性の理論を用いてミトコンドリアの遺伝子の相関性を分析し、真のミトコンドリアイヴを特定する。…よくわからん。
無限の暗殺者
平行世界 パラレルワールド
S
世界間転移
〈渦〉カルト
イェユーカ
血液センサーと薬物合成ができる指輪
祈りの海
位相教 深淵教会
ベアトリス
橋のやりとり
神を信じるとはどういうことか。難しい。
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2017/08/07-2017/08/09
星5
2017年10月18日にこの感想を書いている。サボっていたので随分遅くなってしまった。帰省する際の暇つぶしに途中の本屋で買ったこの本は、とてもおもしろかったことだけ覚えている。この文庫本は短編・中編集だ。1つとして面白くない話はなかった。多くの話を読み終えた後、僕は不安になった。自分とは何か、自己同一性とはどのようなことか、考えていたのだと思う。良いSFだった。
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テクノロジーの発展により、進化した機器や科学的知見をもとにストーリーを記載。作者の構想に現実はまだまだおいついてない。
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短編集。完成度の高い、そして衝撃を受ける作品が多かった。自分の持っている思考は本当に自分のものなのか、考えさせられた。個人的に衝撃度の高かった作品は「繭」。好きなセリフがあったのは「ミトコンドリア・イヴ」と「祈りの海」。
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どの話も完成度が高く素晴らしい短編集。SF的アイデアは『ディアスポラ』以降のような難解さもなく、読みやすい。表題作以外の短編は文量も約30ページで統一。テンポよく読める。最後の『祈りの海』も感動的で、まさに海に浸かってきたかのような読了感。イーガンの素晴らしさを再認識した。
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《目次》
・「貸金庫」
・「キューティ」
・「ぼくになることを」
・「繭」
・「百光年ダイヤリ―」
・「誘拐」
・「放浪者の軌道」
・「ミトコンドリア・イヴ」
・「無限の暗殺者」
・「イェユーカ」
・「祈りの海」
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「祈りの海」「貸金庫」「キューティ」SF的でいて愛とは人間とは何かをわかりやすく問うものが多かった。科学的には分かっていても、解明されてしまっても人間は動かせない何かがあるのだ。
貸金庫の、特殊な設定で、それを法則を見つけ慣れていく主人公が面白かった。
繭、繭の中で、赤ん坊は何から守られているのか。すべてがホルモンやDNAで調節できるとしたら、ジェンダーは左利きは、「正常」以外はどうなってしまうのか。
誘拐、僕になることを、人格を全くコピーできる世界は、「自分」の認識とは何か。逆に、何を他人と判断するのだろう。スクリーンの妻が毎日苦しんでいたら、病みそう…
100年ダイアリー無限の暗殺者、ミトコンドリアイブ、サスペンスドラマのようで、別世界のAを殺し、Bがたたかい、難しい…でも世界観があんまり好きではなかった。
誰かの感想で、イーガンは世界観や枠組みがしっかりしてるのに、最後は個人の感想や主観に落とし込まれてしまうのが矮小化というか物足りなさがある、とありその通りだなと思った。ディアスポラのようなバリバリのSFを読みたいのだ。