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日本オリジナル編集の短編集。これが1冊目になるようだ。解説は瀬名秀明。
他作品の解説でも、本作の解説でも触れられている通り、ほぼ全編に渡り、アイデンティティが重要なテーマとなっている。登場人物は多かれ少なかれ、『自分』というものについて何らかの問題を抱えていることが多い。
個人的に印象的だったのは、『繭』『誘拐』『ミトコンドリア・イヴ』『イェユーカ』『祈りの海』。中でも『繭』で描き出される世界はショッキング。
テーマが共通しているので、あまり一気に読むと飽きるかな~と思っていたのだが、杞憂だったようで良かったw
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小学校の理科の時間に、口の粘膜を綿棒ですくって顕微鏡にかける実験があった。接眼レンズを覗くと、本当に教科書で見たような細胞があった。
「祈りの海」の主人公が覚えた衝撃は、そのときの記憶に似ているかもしれない。
地球とは別の海の星で、主人公の「ぼく」は暮らしている。幼いころにある体験をして、それ以来大いなる女神の存在を信じている。しかし、成長した彼が自らの研究で判明させたのは、その体験が単に微生物の排泄物がもたらす幻覚だったという事実だ。
信じていたものから神秘的な(俗悪な)ヴェールを剥ぎ取られ、主人公の拠り所は一気に瓦解する。
発想の点では、「誘拐」の、「人の心の誘拐」が一番刺激的だった。ただ、ヒューゴー賞を獲ったのは「祈りの海」だというのには納得する。
人は知性という松明で世界を照らしてきた。明るすぎる松明は人自身をも照らしてしまう。暗闇からぬっと現れる顔面像は、人が望むナルシシズムの幻想を少なからず壊してきた。
けれど人は、「祈りの海」の主人公のように前に進める。進むしかない、とも思う。
イーガンのようなSFは、もちろんScienceFictionだけれども、知性を足場に世界を覗きこむことにおいて、現実とあまり変わらないように感じる。この小説の知性の光によって、わたしたちは太陽のもとで腕に走る血管の網目模様を見るように、わたしたちの意識の組み合い方を見ることが出来る。
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#ひとつの短編内でのアイデアの突き詰め方がすごい。平行世界のイーガンたちが、あらゆる可能性を持ち寄って検討したみたい。唸ったのは「貸金庫」「放浪者の軌道」「祈りの海」。
#「誘拐」はこの方法で父母・祖父母を再生させていけば、最終的にはミトコンドリア・イヴまで辿りつけるんじゃない? 自分のファッションが場違いかどうかが進むべき方向の目安、という「無限の暗殺者」には笑った。Tokyo No.1 Soul Setの「Rising Sun」のPVを、このイカれた世界のPVに認定。♪ありとあらゆるものが今姿を変えていく〜
(2009/03/20)
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優れた作品だが読者を選ぶ、私には分かりにくい
表紙 3点小阪 淳 山岸 真編・訳
展開 6点2000年著作
文章 4点
内容 510点
合計 523点
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読んでみたかったグレッグ・イーガンを初めて読んだ。ハードSFの大家の短編集。日本向けに選ばれたらしい。
かなり難しいSFでよくわからないのが多いが、なぜか癖になりそう。
以下は読書メモ:
貸金庫
宿主を転々と移る人。目がさめると意識が違う人に移っている。その間の記憶を書きとめて貸金庫にしまう。そして、名前が死ぬまで変わらないことを夢見る。
キューティ
キューティキット(の安物のコピー商品)で妊娠して、キューティを産む男性。
ちょっと狂ってて気持ち悪い。
ぼくになることを
「宝石」を埋め込んで脳を学習させ、「スイッチ」して永遠の頭脳を得る。自分とは何か。
繭
ゲイ、レズビアン。その発生を胎児期に防ぐ技術。その製品化が繭。
百光年ダイアリー
未来が決定している世界。将来に起こることがあらかじめわかっている。その通りに行動する。未来に従うのも「自由」だ。
…かなり難しい話。
誘拐
妻の身代金要求の映話が突然かかってきた。
スキャン アイランド コピー
放浪者の軌道
アトラクタ(吸引子)
メルトダウン
うーん、よくわからない。
ミトコンドリア・イヴ
量子古遺伝学 量子の相関性の理論を用いてミトコンドリアの遺伝子の相関性を分析し、真のミトコンドリアイヴを特定する。…よくわからん。
無限の暗殺者
平行世界 パラレルワールド
S
世界間転移
〈渦〉カルト
イェユーカ
血液センサーと薬物合成ができる指輪
祈りの海
位相教 深淵教会
ベアトリス
橋のやりとり
神を信じるとはどういうことか。難しい。
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2017/08/07-2017/08/09
星5
2017年10月18日にこの感想を書いている。サボっていたので随分遅くなってしまった。帰省する際の暇つぶしに途中の本屋で買ったこの本は、とてもおもしろかったことだけ覚えている。この文庫本は短編・中編集だ。1つとして面白くない話はなかった。多くの話を読み終えた後、僕は不安になった。自分とは何か、自己同一性とはどのようなことか、考えていたのだと思う。良いSFだった。
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テクノロジーの発展により、進化した機器や科学的知見をもとにストーリーを記載。作者の構想に現実はまだまだおいついてない。
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短編集。完成度の高い、そして衝撃を受ける作品が多かった。自分の持っている思考は本当に自分のものなのか、考えさせられた。個人的に衝撃度の高かった作品は「繭」。好きなセリフがあったのは「ミトコンドリア・イヴ」と「祈りの海」。
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どの話も完成度が高く素晴らしい短編集。SF的アイデアは『ディアスポラ』以降のような難解さもなく、読みやすい。表題作以外の短編は文量も約30ページで統一。テンポよく読める。最後の『祈りの海』も感動的で、まさに海に浸かってきたかのような読了感。イーガンの素晴らしさを再認識した。
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《目次》
・「貸金庫」
・「キューティ」
・「ぼくになることを」
・「繭」
・「百光年ダイヤリ―」
・「誘拐」
・「放浪者の軌道」
・「ミトコンドリア・イヴ」
・「無限の暗殺者」
・「イェユーカ」
・「祈りの海」
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「祈りの海」「貸金庫」「キューティ」SF的でいて愛とは人間とは何かをわかりやすく問うものが多かった。科学的には分かっていても、解明されてしまっても人間は動かせない何かがあるのだ。
貸金庫の、特殊な設定で、それを法則を見つけ慣れていく主人公が面白かった。
繭、繭の中で、赤ん坊は何から守られているのか。すべてがホルモンやDNAで調節できるとしたら、ジェンダーは左利きは、「正常」以外はどうなってしまうのか。
誘拐、僕になることを、人格を全くコピーできる世界は、「自分」の認識とは何か。逆に、何を他人と判断するのだろう。スクリーンの妻が毎日苦しんでいたら、病みそう…
100年ダイアリー無限の暗殺者、ミトコンドリアイブ、サスペンスドラマのようで、別世界のAを殺し、Bがたたかい、難しい…でも世界観があんまり好きではなかった。
誰かの感想で、イーガンは世界観や枠組みがしっかりしてるのに、最後は個人の感想や主観に落とし込まれてしまうのが矮小化というか物足りなさがある、とありその通りだなと思った。ディアスポラのようなバリバリのSFを読みたいのだ。
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SF小説はいくつか読んできたが、難しいことを抜きにして楽しめるものと、専門的記述が多く理解し難いために楽しめないものとがあった。
本書は後者の方で、作者が物語をとおして伝えたいことはSF的な技術進歩等だけではなく人間そのものや自由についてなのだろうが、とても話が解りづらい。人間についてというテーマを語る上で、高度な技術的解説が必要なのか疑問に思った。物語冒頭はまだいいが、だいたい中盤くらいでとても難しい科学技術的な話が出てきて、その後はもうついていけないため、話のオチもよくわからないまま終わったと感じてしまう。
SFの父、ジュールベルヌも難しい技術的な話が出てくることもあるが、それ以上に物語の展開や登場人物達が魅力的で楽しめる。
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ハヤカワ文庫
グレッグイーガン
祈りの海
科学とアイデンティティの対立を描くハードSF短編傑作集。共通テーマは「科学の時代に自分のアイデンティティを確立できるか」
各短編 SFでしか描けない状況のアイデンティティを描いている
*霊のアイデンティティ
*DNA操作により生まれた赤ちゃんのアイデンティティ
*自身のバックアップがいる人間のアイデンティティ
*母胎システム管理により消滅させられる同性愛者のアイデンティティ
*決められた未来を生きる人間のアイデンティティ
*医師不要の時代における医師のアイデンティティなど
感動したのは 同性愛者のアイデンティティ「生まれつきのものであり、それを 誇りに思うことも 恥に思うこともない」
終盤2編「イェユーカ」「祈りの海」は読みとりにくい。職業倫理や宗教観が アイデンティティという捉え方でいいのだろうか?
貸金庫=自分の意識を保存する肉体
*意識(精神)と肉体 は別
*意識が 転々と人間(宿主)の肉体に憑依して 記憶を形成していく
キューティー
*親の愛は 子どもが人間として存在することを前提としている
*人間として存在する=赤ちゃんが親へ意思表示(パパと言うなど)
*DNA操作により生まれ、4歳で死がセットされた赤ちゃんに 親の無償の愛は存在するのか
ぼくになることを
*人間は バックアップ用の能に経験を同期し、30歳くらいにバックアップ用の能にスイッチし、永遠に生きられる世界
*同期により自我と意識は1つになる→一人の人間しか存在していない
繭
*母体子宮を管理し同性愛者を発生させない細胞(繭)の研究
*分離主義〜同性愛が病気の一種にされる→一つの人種が地球から姿を消す
百光年ダイアリー
*決められた未来を生きる人間にアイデンティティはあるのか
*不変の未来〜歴史は過去も未来も決定済
*歴史はつねに勝者が書いてきた〜歴史の作者の干渉〜誰もが操られている
誘拐
*自分のスキャンファイルにより、自分の死後、仮想現実に コピーを復元できる
*私たちはお互いのことをコピーとしてしか知ることができない。私たちに知ることができるのは、自分の脳の中にいる、お互いの一部分でしかない
放浪者の軌道
*放浪者=倫理的単一文化の居住者の道徳律から外れた自分
*一つの思想体系は 信奉者から周辺の人へ広まり、無秩序な集団を取り込んでいく
ミトコンドリアイブ
*アイデンティティを確立するために 人間のルーツを規定しようとする誤り
*男性も女性も、民族主義も〜捨てるべき。そのとき「幼年期の終わり」がくる。先祖を冒涜せよ
無限の暗殺者
*無限とアイデンティティの対立
*主人公のわたし=無限=無限の数のバージョンのわたし〜死ぬことなど気にする必要はない→わたしは 無にすぎない、測度零の集合
*アイデンティティ=わたしが死ぬときに わたしが引き返さないことで 恥辱に まみれずにすむ
イェユーカ
*医師が不要となるヘルスガードという装置。主人公である医師がヘルスガードを付けること自体、医師が病気に負けている世界
*理解できれば どんな病も癒せる医師としてのアイデンティティが生まれたラストシーン
祈りの海
人生を価値あるものにしているものが〜無意味である可能性に面と向かう気構えがあれば〜その奴隷になることはない
最後のやりとりが印象に残る
「神ってのは なかなかいい思いつきだが、まるで意味をなさん」
「でも生きることがつらすぎませんか?」
男は笑って「四六時中って わけじゃないさ」
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短編集。一編毎に全く違う世界が描かれていて、多彩さに驚きました。
それぞれの環境の中で、アイデンティティ、私というものをどこに求めるかが突き詰められていて、読みごたえがありました。
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難しかったし、SFすぎるのがあまり好きではないので少し飽きてしまった。でも短編集なので手軽に読める。複雑すぎて…