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心の進化 人間性の起源をもとめて みんなのレビュー
- 松沢 哲郎 (編), 長谷川 寿一 (編)
- 税込価格:3,740円(34pt)
- 出版社:岩波書店
- 発行年月:2000.11
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紙の本
人間の「精神」や「心」や「人間性」の起源を霊長類学からアプローチする。
2001/01/04 18:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「人間はサルから進化した」とはあまりにもよく使われるフレーズである。しかし、実はこの言い方は、現在明確になっている進化論に照らしてみると、正確さを欠いていると言わざるをえない。生命はおよそ36億年前に原初的な生命体から誕生して以来、ゆっくり長い時間をかけて多様化してきた。その多様化された、地球上に存在する生物種のうちのたった1つの種が人間すなわちホモ・サピエンスなのだ、という言い方が好ましいと思われる。「人間はサルから進化した」と言うと、あたかも人間はサルよりも遙かに上等な生き物であるかのような錯覚を与えてしまいかねない。しかしご存じだろうか。チンパンジーと人間との遺伝子の差は、たった1.7%でしかないのである。
そうであるならば、人間しか「心」を持たないと考えるのは傲慢としか言いようのないものとなるのだが、ではなぜ、人間だけが二足歩行をし、言葉を自由に使い、それによって感情を伝え、文化を伝承してきたのだろうか。チンパンジーやボノボやゴリラやオランウータンと人間との本質的な差は何なのだろうか。ここで安易な答えを出すのは最も危険なことである。なぜなら、人間だけにではなく、チンパンジーにも「社会」や「文化」はあるし、独特の「意志の伝達方法」もちゃんとあるからだ。
いま霊長類学を研究する科学者は、人間とチンパンジーとの間の、たった1.7%の遺伝子の差を埋めようとしている。その研究が成功すれば、人間の「精神」「人間性」の起源をたどることもできるからだ。本書は雑誌「科学」に掲載されていた、「心の進化」についての論文を収録したものである。多少難しい内容の論文もないではないが、これを読むといま霊長類学者が何を実験し、今後何をやろうとしているのかがわかる。生物学や霊長類学に馴染みのない人は、わかるところだけ飛ばしながら読むのがいいかもしれない。「心の進化」を考えるに有益な内外のインターネットのサイトも紹介されている。
例えば、京大霊長類研究所にいる有名なチンパンジーのアイは、モニター上で色を見、それを表す漢字を答えることができる。野生チンパンジーは一組の石とハンマーを台として活用し、堅い木の実を叩き割り、その中味を取り出して食べることができる。つまり、「言語」と「道具」は人間に固有のものではないのだ。霊長類の知性がどのように進化していったのか、を解明するひとつのアプローチの端緒がそこにある。その他「道徳」や「利他行動」を解明する研究や、遺伝子から人類の成立をたどった研究も収録されている。
霊長類学者は自然科学者である。その自然科学者が、いままで人文・社会科学者が研究してきた「人間性」についての研究を、自らのフィールドを起点にしてものすごい勢いで進展させている。個々の霊長類の「人間性」が解明された暁の次なる課題は、おそらく「社会」だろう。なぜ個々の霊長類は単独で生きるのではなく、群れをなして生きているのか。群れを形成するきっかけや動機は一体何なのか。従来この問題は自然との関わり合いだけから論じられることが多かったが、それが個体レベルから解明されるようになると、いままでの研究にかなりの厚みが加えられることになる。そうなると人文・社会科学者はうかうかしていられないと思うのだが、どうだろうか。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2001.01.05)
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