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紙の本
吉右衛門の芸の秘密に近づける本
2001/01/26 20:28
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:水原紫苑 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中村吉右衛門といえば、現代の歌舞伎役者の中でも、人間的な深さの表現では誰もが認める第一人者である。私も大ファンの一人で、この自伝エッセイは『なごみ』に連載されていた時から楽しみにして読んでいた。
一代の名優初代吉右衛門を祖父そして養父として持ち、もうひとりの祖父は七代目幸四郎、父は初代白鴎、兄は現九代目幸四郎と、きらびやかな名門に生まれ育った著者だが、幼い日からきわめて繊細で屈折した心情を抱き、素直に他者の愛を求めることができない少年だった。吉右衛門の心をあたためてくれるのは献身的なばあやの愛情だったが、そのばあやの臨終の折り、誰の呼びかけにも応えなくなっていたばあやが、当時染五郎だった現幸四郎が来た時にだけ目を開いて「お帰りなさい」と言った。そばにいた吉右衛門は、この時ほど兄を妬ましく思ったことはない、と語る。兄弟の宿命的な愛憎が切なく心にひびく。
吉右衛門の芸の秘密に近づける本である。
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