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日本の医療をバランス感をもって解説した傑作
日本の医療制度を政策決定過程、制度の生い立ち、その特徴、抱える課題といった切り口から、極めてバランスよく、冷静に解説した傑作である。
「医療費は高い」という一般通念に反し、日本の医療費は国際的にも低く、それを実現するために設計された診療報酬の仕組みや政策形成の仕組みを明快に解説。日本の医療制度が「バランス」という絶妙の技によって、世界的にも類まれな高水準と低コストを実現していることは注目に値する。本書が、アメリカの政治学者との共著であり、他国でも出版されていることが、日本の医療制度の独特性を示す。
このような医療制度を実現すべく腐心してきた官僚の頭脳と労力に素直に敬意を表するとともに、このような仕組みを単純な経済原理で改革しようとする勢力への危惧を改めて覚える。
時点が古いのは仕方ないが、医療問題を考える際、常に座右に置き、しばしば紐解きたい絶好の書である。
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再読。
内容をざっくりまとめると
・日本の現医療システムは、厚生省内に位置する中医協(ペイヤー側)と医師会(プロバイダー側)の拮抗関係の中で出来上がった。
・医師会の力が弱まってからは、厚生省による統制(特に医療費抑制)に特徴されるシステムとなった。
・将来的には医療サービスの質、医療研究の質、医師も含めた医療従事者の質が課題となる。
現医療システムについて変えられること、変えられないこと(変えるべきでないこと)を探る上で、システム発展の歴史を知ることは大事だと改めて感じた。
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昔、生産管理システムという分野があった。工程に通暁し、そこで勤務する方々と懇意であり、ある種の敬意を払われていた。また、いざとなれば実務もできた。実務ができるからシステム屋(厭な言葉だが)をやっているような人がいた。個別個別の工程に対する広い見識が必要だった。
でもいつの日にか、現場から切り離して「分社化」されてしまった。なんと「見積」と「請求」の世界になってしまったのだ。
「医療は肺炎や骨折などの急性期のケアは得意であるが、介護で求められているのは生活に密着した長期にわたるケアであり」(p.221)
そうなんだよなあ。急性期のケアは切り出せるけれども、介護は切り出せないはずだ。切り出したりするから「いざ介護が必要な時に十分なサービスは受けられないという状況が発生する危険性がある」(p.223)
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歴史的なアプローチから、日本の医療の問題点や良い点について、
実に詳細に記述されている。
とかく専門家が口にされる日本の医療の良さ・レベルの高さと、
日本国民の満足度の低さ。
このギャップが一どこにあるのか?
このことが実に論理的に分かりやすく書かれている。
発刊が1996年と既に10年以上も前。
当然介護保険もスタートしていない時代であり、
書かれている情報の古さは否めないものの、
システム発足の歴史的な背景を知ることは価値が高い。
専門用語も多く、内容については決して易しいものではないが、
日本医療の今後を考える際には必読書と考える。
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[ 内容 ]
日本の医療制度の功罪を日本人医師と米国人政治学者が分析。
[ 目次 ]
第1章 医療政策はどう決まるか
第2章 医療機関と医療従事者
第3章 医療保険制度
第4章 医療費抑制の仕組み―マクロの視点から
第5章 医療費抑制の仕組み―ミクロの視点から
第6章 医療の質
第7章 転換期の医療費政策
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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日本の医療制度について、その歴史的な経緯を含めて説明した一冊。
皆保険制度や診療報酬改定について、整理されている。
一方で、データが古いため、介護保険や後期高齢者医療制度、新臨床研修制度については触れられていないことに注意。
「国民皆保険が危ない(山岡 淳一郎著)」の方が、現状に即しているので、こちらもお勧め。
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日本の医療制度について包括的に解説した本。
解説に終始せず、提言も行っている。
基本的にはアメリカの自由主義的な医療制度と、日本の官による統制的な医療制度の比較の中で、日本の医療制度の問題点、優れた点を描いている。
筆者の提言としては、①現在、大規模病院と市中の診療所の間で機能の重複が多くみられるため、それをを分割することで「三時間待ち、三分診療」の解消ができる。②そのためには包括的な診察料を設定し、さらには効率性、医療の適正性などの評価基準を設定し、病院ごとに診察料を設定する。③また現在赤字傾向のある高度医療についても、点数を上げてインセンティブを上昇させるべきである。
これらを行うことで、初診は市中のかかりつけ医で、高度医療は紹介を通したうえで大病院で行い、大病院は高度医療に専念できるようになる。
ただし、本書は1996年に書かれたものであり、現在(2013)の状況とは違っているかも知れない。