紙の本
幻想小説家としてのナボコフ
2015/08/24 17:58
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投稿者:ef - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は、ナボコフの全短編を2巻にまとめたものです。
年代順編成となっており、ナボコフ作品の推移を楽しむこともできます。
ナボコフの作品は、特に初期の頃は、良く言えば余韻を残す、悪く言えば舌足らずという印象を受けてしまいます。
また、大変幻想的な作風で、これは立派な幻想文学ではないかと思う次第です。
ナボコフと言えば「ロリータ」とすぐに言われるほど、「ロリータ」が有名過ぎますが、あれも実は幻想小説として読めるのではないかと、本作を読みながらつらつらと考えました。
現実的な作品として読むと、妙に生々しかったりしちゃうわけですが、一つの幻想小説として読むことも十分成り立ち得ますし、そういう視点で読んでみるとまったく違う感覚になるのではないかなぁと愚考しているわけですね。
また、ナボコフの短編は、ストーリーもさることながら、その情景や雰囲気の方が強く印象に残る作品があるのではないかと感じてもいます。
短編なので、粗筋を紹介するとネタバレになっちゃうので控えますが、例えば、「翼の一撃」という作品は、スキー・リゾートを舞台にしており、当地のホテルに宿泊している活発な女性と天使の関わりが描かれます。
これなんかはスキー場、シュプール、リゾート地のホテルという舞台設定が印象的です。
また、「偶然」という作品は、ドイツの急行列車の食堂車でボーイをしている男性が主人公なのですが、彼はいまにも自殺することを考えており、しかもコカイン中毒という設定です。
豪華な列車内の描写と主人公の心情が主たるストーリーよりも印象を残す様に感じました。
ね、どれも立派な幻想文学的な感じがしますでしょ?
「ロリータ」も良いですけれど、それ以外のナボコフもなかなかの味わいですので、お勧めです。
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様々なテーマの、様々な種類の作品が収められている。
天使や神やファンタスティックなイメージが登場するものから政治的なものまでと幅広い。
テーマが色々だからどの作品も印象に残るし、どれもが面白いし素晴しい。
短篇集で、しかも35篇も収められていて、ほとんどの内容を覚えていられるというのはすごいと思う。
たいてい短篇集なんていう場合、記憶に残るものや好きなものとそうではないものがはっきり分かれるものなのに
この本はそんなことがない。本当にどの話もいい。
聞くところによると、ナボコフは短篇の方がいいなんて言う人も割といるらしい。
それにしても、いやはや、ナボコフさんはやっぱりスゴい人である。
死ぬまでに読んでおかなくてはいけない偉大な文豪のひとりだと思う。
言葉をこれほどまでに使いこなす作家はそうはいない。
翻訳でこれなのだから、原文はきっともっとスゴいのだろう。
美しい言葉で描かれた絵画。
おとぎ話的な映像を脳に浮かび上がらせるような文章の連なり。
美しい比喩が生み出す世界。
散りばめられた色彩。溢れ出す色。
紙の上にひろがる言葉によって描かれる風景に、うっかりするとすぐに気持ちよく目蓋を閉じてしまいそうになる。
閉じてしまいそうというより再読の際は1ページ読むか読まないかのうちに目蓋が下りることもあったけど。。。
劇的な起承転結によるストーリーというよりは、とある人間のとある人生の一部分の出来事を切りとったものが多い。
中には少し長めの物語として読みやすい『ラ・ベネツィアーナ』のようなものもあるが、
印象としてはどの作品も美しい風景に溶け込む死のイメージを文章にしたものばかりだった感じがする。
読んでいる時よりも読み終えてしばらくしてからのほうが内容が体に沁みてくる感じがする。
ふとした時に様々な作品の様々な場面がよみがえってくる。
どれもいいのだが、私は特に『恩恵』『クリスマス』『ロシアに届かなかった手紙』が好きだ。
最後に、素晴しい文章から成る『響き』より、好きな一節を引用。
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”ビロードの棺桶みたいなテーブルの上に載っていたアルバムを投げ出して、ぼくは君をみつめ、フーガと雨の音を聞いていた。いたるところで、棚からも、ピアノの翼からも、シャンデリアの細長いダイヤモンドからもしみ出てくるカーネーションの香りのように、さわやかな感覚がぼくの中から湧き出してきた。”
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ベルリンに逃れてきた亡命ロシア人の話が多い。サラリとしたものから濃密なもの、ダメージを負うものまで様々。90度くらい捻りがある。心に残ったのは森の精、港、雷雨、ラ・ヴェネチアーナ、ロシアに届かなかった手紙、けんか、ベルリン案内、おとぎ話、オーレリアン、忙しい男、未踏の地
「森の精」「外套」のパロディ?
「港」 さわやか
「雷雨」 預言者エリヤ
「ラ・ヴェネチアーナ」 絵画の不思議な話
「けんか」 絵画的な平和な日常から一転
「ベルリン案内」 未来の回想の覗き見
「おとぎ話」 シニカルな寓話
「忙しい男」 円環構造
「未踏の地」 M色のS景のよう。未開のジャングルでの昆虫採集
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20190530
ナボコフ読書会、若島正さんの移動祝祭日に参加しました。福岡市です。
この中から、ある日没の細部が課題でした。
お前はもう死んでいるリストの本を紹介いただき、ラブクラフトを知りました。
マルクはトラックにはねられたけど、はじめから死んでたのかもしれなくて。クララとのことは全部妄想かもしれなくて。
何が本当でなにが間違いなのかわからなくて。でもわたしの見ている世界もそんなもんかもなって。
20210320
『けんか』のみ読了。
読書会の課題本で。zoom。26人参加?
けんかは、1920年ナボコフ26才の時に書かれた短編。亡命ロシア人の目線で描かれてる。天気とか太陽とか明るいところから、だんだん夜へと移動してくる。単純な話にみえて複雑でした。