紙の本
女性とは思えない力強い詩集です!
2002/07/29 15:27
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投稿者:武蔵野詩人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体の章は1と2の2つに分けられていて、「見えない配達夫」を含めて
27の詩から成り立っている。
とくに印象に残った詩をあげます。
まず「悪童たち」は、春休みに悪童たちが「わが家の塀に石を投げる」と
「ガラス窓に命中する」のであるが、石を投げる理由が「キャッとばかり
飛び出してゆく私の姿を見ようがための悪戯」で捕まった子どもたちは
逃げた首謀者の子どもをかばって黙っているというのを「抵抗運動の仲間」
と表現しているのは笑える。
「悪童の顔ぶれは毎日違い私は毎日出てゆかなければならない」のに
「おまわりさんを呼んでくるという一言をぐっと押さえ」「やさしい言葉
で人を征服する」、つまり「悪童たち」に言ってきかせるところはまさに
大人の子どもに対する接し方として見習わなければならないだろう。
「わたしが一番きれいだったとき」に「わたしの国は戦争に負け」
「とてもふしあわせ」だったから「できれば長生きすることに」決めた
というのは逆説的だが、長生きして幸せな人生を送りたいという願望が
見て取れる。
全体を見ると本音がいっぱいつまっていて男性的な力強い詩である。
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この人の詩は「!」の付いた声高な詩よりも軽やかに言い放つ詩の方が似合う。「わたしが一番きれいだったとき」はやはり秀逸だが、「くだものたち」の「蜜柑」が個人的に好き。
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この詩集より何編かが、高島みどりさんによって曲を付けられて合唱曲になっている。
大学1回の時歌った思い出の原型。
合唱曲になっている作品に加えて
「くだものたち」が、お気に入り♪
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この人いいなぁ、好きだなぁ。
でも詩集は、借りないほうがいいなぁ。買った方がいい。
その都度、自分の心境にあった言葉を、味わうべきだと思う。
短い言葉に託されている分、思いが強い。
内容に関して言えば、
「真夏の夜の夢」が好きだと思った。
この人の思い描いたような未来から、我々は、どれだけ近づくことができたのか、はたまたどれだけの距離が未だあるのだろうか。
この人の言葉の背景には、やはりどこか、戦争を通した何かがある。
「価値観がひっくり返った」と。
「一度玉砕を誓った」と。
そこを通したことで、未来に望む展望が生まれたという重みがあるというか。
ここからは、「言葉」について考えさせられたことを書く。
わたしはもっと、言葉を的確に吐こうと思った。
私はとにかく、人に伝えるのが下手なのだ。
文…とりわけこのブログに関して言えば、わたしは恐らく「読み返して、推敲する」ことを前提に書いている。とても私的なものでありながら、それを公開し、読まれることを私はよく忘れる。うっかり忘れる。
もう少し、「読まれる」ことを意識して書こうと思った。
(あんまり意識しすぎると虚飾を伴うので…気をつけたいところだけれど。)
会話に関して言えば、私は、「書き言葉を話してしまっている」気がする。会話は、「語彙が豊かならば良い」というわけでは、必ずしもない。「人が分かる言葉を選ぶ」ことをせなならんのだ。それもまた難しい。文面でよく見る熟語を発して、変な顔をされたこともよくある。
コンディションも実は大事で。
本ばかり読んで、自分の世界に入り込んだまま人と会話すると、うまくいかない。あれ、何なんだろうな。自分の世界から抜け出しきってないから「人はアンタのことなんか何も知らないのよ。」という前提を、すっ飛ばしてしまう。気をつけなならん。
自分は今、どのコミュニケーションの位相にいるんかと。そこをよく考えないから、わたしは人から変な目で見られることがあるんだろうな。
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日経の1面で、この本に収録されている「六月」という詩が紹介されていたので手に取ってみました。
初版が約60年前に刊行されたようですが、作者のとらえた日本の姿、またそこで生きる女性の姿の本質は、今も変わらないように思います。
傍に置いて、人生の折々に読み返し、自分の生き方を見つめ直すきっかけにしたい作品です。
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茨木のり子さんの詩集ですね。
『見えない配達夫』は、茨木のり子さんの第二詩集です。1958年に刊行されて、四十年ぶりに復刊されました。この本は2001年発行されたものです。
見えない配達夫
Ⅰ
三月 桃の花はひらき
五月 藤の花々花いっせいに乱れ
九月 葡萄の棚に葡萄は重く
十一月 青い蜜柑は熟れはじめる
地の下には少しまぬけな配達夫がいて
帽子をあみだにペタルをふんでいるのだろう
かれらは伝える 根から根へ
逝きやすい季節のこころを
世界中の桃の木に 世界中のレモンの木に
すべての植物たちのもとに
どっさりの手紙 どっさりの指令
かれらもまごつく とりわけ春と秋には
えんどうの花の咲くときや
どんぐりの実の落ちるときが
北と南で少しずつずれたりするのを
きっとそのせいにちがいない
秋のしだいに深まってゆく朝
いちぢくをもいでいると
古参の配達夫に叱られている
へまなアルバイト達の気配があった
Ⅱ
三月 雛のあられを切り
五月 メーデーのうた巷にながれ
九月 稲と台風とをやぶにらみ
十一月 あまたの若者があまたの娘と盃を交す
地の上にも国籍不明の郵便局があって
見えない配達夫がとても律儀に走っている
かれらは伝える ひとびとに
逝きやすい時代のこころを
世界中の窓々に 世界中の扉々に
すべての民族の朝と夜とに
どっさりの暗示 どっさりの警告
かれらもまごつく 大戦の後や荒廃の地では
ルネッサンスの花咲くときや
革命の実のみのるときが
北と南で少しずつずれたりするのも
きっとそのせいにちがいない
未知の年があける朝
じっとまぶたをあわせると
虚無を肥料に咲き出ようとする
人間たちの花々もあった
茨木のり子さんの三十代の頃の作品です。戦争の後遺症を抱え込んで、敵愾心がみられる力強い作品が多いですね。茨木のり子さんの内心の優しさや包容力もみられます。
他に、『ばらの花咲き』『六月』
『わたしが一番きれいだったとき』『奥武蔵にて』『くだものたち』『夏の星に』なども良かったです。
茨木のり子さんの詩には、勇気と希望を覚えます。