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『少年の時間』の対になる短編集。しかし、こっちのほうがSF純度が低い。六篇の短編中SFらしき作品は3.5作品。
小林泰三の「独裁者の掟」は完璧SF。小林泰三は「ΑΩ」の作者だ。「ΑΩ」に比べ、凄惨な描写は少なめ(あくまでも少なめ)。てか、「ΑΩ」を読んでそういった感覚が麻痺しちゃったのかもしれない。人々の命運を背負い、心を凍らせて、目的を達するために手段を問わない総統。総統が自己と周りのものを犠牲にしてまで遂げたかった目的とは一体なんだったのだろうか…。二つの視点をオーバーラップさせる手法が見事。
青木和の「死人魚」は、微妙にSFなのかもしれない。でも、違うかもしれない。どちらかといえば、伝奇とかホラーの類だろうか。山登りに行った青年が迷い込んだ村。そこで出会った村八分にされた少女。少女が大切に育てている赤ん坊。排他的な村に、青年は影響を与えることができるのだろうか。
篠田真由美による「セラフィーナ」もSFじゃない。怪奇系ホラーとでも呼ぶのだろうか。ミステリアスなアンティークショップの女主人の語る、高級娼婦の肖像画にまつわる話。SFじゃないけど、この話のラストは妖艶でいい感じ。
大塚英志が白倉由美ノベライズした「彼女の海岸線」。獣耳&シッポ付きの女の子と暮らした男の子の話。これは、いまいちわからなかった。ネコ耳とかネコ尻尾ならOKなんだが、キツネ属性はないのか残念ながら萌えませんでした。
「アンドロイド殺し」は二階堂黎人のSF。タイトルからしてSFっぽさが匂ってくるね。これは、展開が二転三転…挙句に四転ぐらいする。ちなみに、この短編に登場する未来の道具・機械などの元ネタSFを探すのも一興かと。
最後の短編は梶尾真治の「朋恵の夢想時間(ユークロニー)」。まあ、タイムトラベルものだろう。何気なく取った行動の所為でその後の人生悔やみ続ける。そういった誰にでもあるだろう過去の思い出。しかし、過去とはけして取り返せないもの…。過去に肉体を送り込むタイムトラベルは、エネルギーを使いすぎる。ならば、精神だけなら…?過去は変えられるのか…?
ハイブリッド・エンターテイメントの名にふさわしく、あらゆるジャンルのものを、いろんな作者の作品のを読みたいときにオススメ。