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本書は、リンゼイがオックスフォードのベィリオル・カレッジで行ったチャペル講話を中心に集めたものである。宗教、なかんずく福音主義キリスト教は特に人間性の問題を扱い続けてきたが、当
然リンゼイにおいてもそれは当てはまる。あらゆる著作・講演において、「福音伝道
者」の如き気迫を内に秘め、読者・聴衆の実存に訴え掛けるリンゼイの姿を見ること
ができる。
リンゼイは1945年の講演「善良な人と利口な人」において、専門家に対してプレインな人間を擁護している。彼にとってそ
れは「善良な人」(goodness)と「利口な人」(cleverness)の区別と重なるものである。リン
ゼイによれば、プラトンやアリストテレスは善を過度に知性化し、利口さを目的の如
何に関り無くそれを達成する力、すなわち中立なものと考えた。それに対するユダヤ
教からイエスに連なる「反動」として、リンゼイはパウロの言葉を引用する。
「兄弟たち、あなたがたの召しのことを考えてごらんなさい。この世の智者は多くは
なく、権力者も多くはなく、身分の高い者も多くはありません。しかし、神は知恵あ
る者をはずかしめるために、この世の愚かな者を選び、強い者をはずかしめるため
に、この世の弱いものを選ばれたのです」
(コリント人への第一の手紙1章26、27節)
このような人間観を基盤に、リンゼイはピューリタンたちの素朴な小集団に、近代デモクラシーの淵源を見るのである。