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歴史・レトリック・立証 みんなのレビュー

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みんなのレビュー2件

みんなの評価4.7

評価内訳

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高い評価の役に立ったレビュー

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2001/10/26 06:18

歴史はいまなお経験的テストの対象であり続ける

投稿者:三中信宏 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 地味目のタイトルではあるが,歴史学のもっとも根本的な問題である資料にもとづく経験的検証の可能性を論じた論集である.歴史がレトリックとしての叙述であり経験的な立証とは相容れないという最近流行の懐疑論に対抗して,著者は,「真理の探求こそは歴史家たちもふくめておよそ探求をおこなおうとするすべての者にとって依然としてもっとも基本的な任務である」(p.71)という基本的な姿勢のもとに,上の懐疑主義に対する反論を本書で行なっている.
 彼の反論の骨子は,「歴史がレトリックにすぎないのだ」という懐疑主義派の主張を「両者の関係は薄弱である」というカウンター主張で反論することではない.むしろ逆に,両者の密接な関係を認めた上で,レトリックという概念そのものがアリストテレスの『弁論術』以来連綿として経験的立証をその根幹に含んできたという指摘をすることで,歴史がいまなお経験的立証の対象なのだと主張する戦術を採用する(p.73).この戦術はなかなかいいと私は思う.
 アリストテレスによるレトリックの分類の中でも,彼の『弁論術』で詳述されている「エンテュメーマ」(説得のための推論)に著者は着目する.なぜならそこには,「“最善の説明に向けての推理”(より古い言い方では,結果から原因へとさかのぼっていく推理)のような不可欠の推論様式」がふくまれている(p.67)からである.
 歴史がレトリックであること,そのレトリックが本来エンテュメーマ(遡行推理)としての推論様式を保持してきたこと,の二点から,歴史は推論あるいは立証の対象であり続ける.では,レトリックが立証とは無縁であるという誤った見解はなぜ生じたのか? 第2章でこのテーマに取り組んだ著者は,後世の弁論術やレトリックに絶大な影響を残したキケロがその責めを負うべきだと考えている(p.91).
 レトリックが立証とは矛盾するという懐疑主義の見解はもはや鵜呑みにはできない.歴史家は立証という行為をふたたびまじめに考えるべきだという著者は,歴史を推論するためのデータのもつ役割について,こんなユニークな表現をしている:「資料は実証主義者たちが信じているように開かれた窓でもなければ,懐疑論者たちが主張するような視界をさまたげる壁でもない.いってみれば,それらは歪んだガラスにたとえることができるのだ」(p.48).歪んだガラスであるデータから歴史を推論するためには,「ひとは証拠を逆撫でしながら,それをつくりだした者たちの意図にさからって,読むすべを学ばなければならない」(p.46).こうして,かつての実証主義でもなく,相対主義・構築主義でもない第3の道が拓かれると著者は結論する.
 歴史の推論基盤を論じた本としては最近まれに見るクリアな本だと私は感じた.
【目次】
序論 歴史・レトリック・立証 1
第1章 アリストテレスと歴史,もう一度 49
第2章 ロレンツォ・ヴァッラと「コンスタンティヌスの寄進」 74
第3章 他者の声:近世初期イエズス会士たちの歴史叙述における対話的要素 99
第4章 空白を解読する 127
原注 153
訳者解説:ギンズブルグにおける「表象と真実」問題のその後 197

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低い評価の役に立ったレビュー

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2001/05/30 18:17

歴史はレトリックなのか。現代イタリアを代表する歴史家の理論的挑戦。

投稿者:桜井哲夫 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 カルロ・ギンズブルグと言えば、『チーズとうじ虫』や『闇の歴史』などの傑作を思いおこす人も多いだろう。私も、かつて興奮しながら彼の歴史探究を読んだ記憶が鮮明によみがえってくる。

 本書は、ギンズブルグが、60年代以降の歴史実証主義に対する思想家たちからの厳しい批評を受けとめながら、歴史的事実を再構成するというのは、一体どのような行為であるのかを考え抜こうと試みたものである。決して読みやすい書物ではない。いや、それどころか、自分自身の迷いもふくめて叙述しているので、簡単に理解してもらおうとは思っていないふしもある。

 真理などというものはない。その時代の人間的諸関係の総和を表現しているものであって、強調されたり、飾られたりしているうちに、規範として拘束力を持つようになっただけのものだ、とニーチェは述べる。
 ギンズブルグの思考は、この言葉を起点として、古代のアリストテレスのテクストから、中世のロレンツォ・ヴァッラのテクスト、19世紀の作家フローベールの小説などを経めぐってゆく。

 ニーチェの言葉から出発する相対主義者たちは、歴史(ヒストリー)と虚構(フィクション)との区別は厳密にはつけがたいと論じて、歴史家からは、知的遊戯に走っていると論難される。しかし、歴史家たちが後生大事にする、書き残された資料とは、絶対に正確な歴史的事実を表現しているのだろうか。
 日本でも、従軍慰安婦をめぐる歴史叙述に関して、あくまでも書き残された資料にこだわり続ける歴史家に対して、歴史資料は絶対ではないと批判するフェミニストの批判を思い起こしてもらうといいかも知れない。

 ギンズブルグは、ベンヤミンの言う「歴史を逆撫でする」という表現を引いている。そして、歴史家は、歴史的証拠を「逆撫で」しながら、それを作成した人間たちの意図に逆らって読み込むすべを身に付けなければならないのだ、と述べる。
 歴史資料を、全面的にその時代のイデオロギーに染まったもの、つまりレトリックのひとつの形態だとしてしまう歴史的相対主義は、やはり軽率だと彼は考える。とはいえ、資料の絶対的正しさを盲信する実証主義の立場にも組みしない。この微妙なバランスが、ギンズブルグという希代の歴史家の資質なのだろうと思う。
 むろん、こういう立場は、ポストモダニストからも実証主義歴史家からも疎まれるだろうことは想像に難くない。訳者の解説によれば、実際彼のこうした理論的試みは、あちらでも正確に理解されているとは言い難いようである。むろん、晦渋としかいいようがない彼の議論の組み立て方にも問題がないわけではない。本書にしても、もう少し素材や構成を入りやすいかたちにしてほしかった、というのは、評者の身勝手な希望だろうか。 (bk1ブックナビゲーター:桜井哲夫/東京経済大学教授 2001.05.31)

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紙の本

歴史はいまなお経験的テストの対象であり続ける

2001/10/26 06:18

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投稿者:三中信宏 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 地味目のタイトルではあるが,歴史学のもっとも根本的な問題である資料にもとづく経験的検証の可能性を論じた論集である.歴史がレトリックとしての叙述であり経験的な立証とは相容れないという最近流行の懐疑論に対抗して,著者は,「真理の探求こそは歴史家たちもふくめておよそ探求をおこなおうとするすべての者にとって依然としてもっとも基本的な任務である」(p.71)という基本的な姿勢のもとに,上の懐疑主義に対する反論を本書で行なっている.
 彼の反論の骨子は,「歴史がレトリックにすぎないのだ」という懐疑主義派の主張を「両者の関係は薄弱である」というカウンター主張で反論することではない.むしろ逆に,両者の密接な関係を認めた上で,レトリックという概念そのものがアリストテレスの『弁論術』以来連綿として経験的立証をその根幹に含んできたという指摘をすることで,歴史がいまなお経験的立証の対象なのだと主張する戦術を採用する(p.73).この戦術はなかなかいいと私は思う.
 アリストテレスによるレトリックの分類の中でも,彼の『弁論術』で詳述されている「エンテュメーマ」(説得のための推論)に著者は着目する.なぜならそこには,「“最善の説明に向けての推理”(より古い言い方では,結果から原因へとさかのぼっていく推理)のような不可欠の推論様式」がふくまれている(p.67)からである.
 歴史がレトリックであること,そのレトリックが本来エンテュメーマ(遡行推理)としての推論様式を保持してきたこと,の二点から,歴史は推論あるいは立証の対象であり続ける.では,レトリックが立証とは無縁であるという誤った見解はなぜ生じたのか? 第2章でこのテーマに取り組んだ著者は,後世の弁論術やレトリックに絶大な影響を残したキケロがその責めを負うべきだと考えている(p.91).
 レトリックが立証とは矛盾するという懐疑主義の見解はもはや鵜呑みにはできない.歴史家は立証という行為をふたたびまじめに考えるべきだという著者は,歴史を推論するためのデータのもつ役割について,こんなユニークな表現をしている:「資料は実証主義者たちが信じているように開かれた窓でもなければ,懐疑論者たちが主張するような視界をさまたげる壁でもない.いってみれば,それらは歪んだガラスにたとえることができるのだ」(p.48).歪んだガラスであるデータから歴史を推論するためには,「ひとは証拠を逆撫でしながら,それをつくりだした者たちの意図にさからって,読むすべを学ばなければならない」(p.46).こうして,かつての実証主義でもなく,相対主義・構築主義でもない第3の道が拓かれると著者は結論する.
 歴史の推論基盤を論じた本としては最近まれに見るクリアな本だと私は感じた.
【目次】
序論 歴史・レトリック・立証 1
第1章 アリストテレスと歴史,もう一度 49
第2章 ロレンツォ・ヴァッラと「コンスタンティヌスの寄進」 74
第3章 他者の声:近世初期イエズス会士たちの歴史叙述における対話的要素 99
第4章 空白を解読する 127
原注 153
訳者解説:ギンズブルグにおける「表象と真実」問題のその後 197

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歴史はレトリックなのか。現代イタリアを代表する歴史家の理論的挑戦。

2001/05/30 18:17

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投稿者:桜井哲夫 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 カルロ・ギンズブルグと言えば、『チーズとうじ虫』や『闇の歴史』などの傑作を思いおこす人も多いだろう。私も、かつて興奮しながら彼の歴史探究を読んだ記憶が鮮明によみがえってくる。

 本書は、ギンズブルグが、60年代以降の歴史実証主義に対する思想家たちからの厳しい批評を受けとめながら、歴史的事実を再構成するというのは、一体どのような行為であるのかを考え抜こうと試みたものである。決して読みやすい書物ではない。いや、それどころか、自分自身の迷いもふくめて叙述しているので、簡単に理解してもらおうとは思っていないふしもある。

 真理などというものはない。その時代の人間的諸関係の総和を表現しているものであって、強調されたり、飾られたりしているうちに、規範として拘束力を持つようになっただけのものだ、とニーチェは述べる。
 ギンズブルグの思考は、この言葉を起点として、古代のアリストテレスのテクストから、中世のロレンツォ・ヴァッラのテクスト、19世紀の作家フローベールの小説などを経めぐってゆく。

 ニーチェの言葉から出発する相対主義者たちは、歴史(ヒストリー)と虚構(フィクション)との区別は厳密にはつけがたいと論じて、歴史家からは、知的遊戯に走っていると論難される。しかし、歴史家たちが後生大事にする、書き残された資料とは、絶対に正確な歴史的事実を表現しているのだろうか。
 日本でも、従軍慰安婦をめぐる歴史叙述に関して、あくまでも書き残された資料にこだわり続ける歴史家に対して、歴史資料は絶対ではないと批判するフェミニストの批判を思い起こしてもらうといいかも知れない。

 ギンズブルグは、ベンヤミンの言う「歴史を逆撫でする」という表現を引いている。そして、歴史家は、歴史的証拠を「逆撫で」しながら、それを作成した人間たちの意図に逆らって読み込むすべを身に付けなければならないのだ、と述べる。
 歴史資料を、全面的にその時代のイデオロギーに染まったもの、つまりレトリックのひとつの形態だとしてしまう歴史的相対主義は、やはり軽率だと彼は考える。とはいえ、資料の絶対的正しさを盲信する実証主義の立場にも組みしない。この微妙なバランスが、ギンズブルグという希代の歴史家の資質なのだろうと思う。
 むろん、こういう立場は、ポストモダニストからも実証主義歴史家からも疎まれるだろうことは想像に難くない。訳者の解説によれば、実際彼のこうした理論的試みは、あちらでも正確に理解されているとは言い難いようである。むろん、晦渋としかいいようがない彼の議論の組み立て方にも問題がないわけではない。本書にしても、もう少し素材や構成を入りやすいかたちにしてほしかった、というのは、評者の身勝手な希望だろうか。 (bk1ブックナビゲーター:桜井哲夫/東京経済大学教授 2001.05.31)

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