紙の本
消化不良の二乗
2001/12/04 10:59
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投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今はどうかわからないけど、僕が子供だった今から三〇年くらい前は、戦車や大砲のプラモデルを作るのが流行ってた。もちろん僕も好きで、両親にねだって色々と買ってもらった。今でも覚えてるけど、一番高かったのは第二次世界大戦のときのドイツの高射砲のプラモデルで、今から二五年以上前なのに、なんと一五〇〇円だった。貧乏だし、一応戦争経験がある両親にしてみれば、複雑な気分だったことだろう。自分も子供を持って、ようやくそんなことがわかるようになった。貧乏か否かにかかわらず、自分の子供には良い環境を残してやりたいと考えるのが親心だろう。そして、武力行使は良い環境の敵なのだ。でも、今だって世界各地で紛争が続いてるし、自分を守る武力がなければ正義は実現されないって意見も根強い。さて、どう考えたものか。
この本の著者の広瀬さんの立場は明快だ。地域紛争の当事国には、武器や兵器を作る力はない。それなのに「なぜ、紛争の現地で使われた兵器と武器のブランド名を、先に見ないのか。国連はなぜ一度もそれを議論しないのか」。こう考えて、広瀬さんは「戦争の道具が、アメリカの軍需産業によってどのようにたくみに普及されてきたか」(二〇ページ)を論じた。具体的には、第一に巨大な国防予算、第二に政界や軍部と軍需産業界の間の密接な人脈、この二点を検討し、アメリカ合衆国の軍需産業の力の源を探った。そのためには、代表的な軍需産業の歴史と現状を整理し、合衆国の戦争の歴史を溯るという作業が必要だった。二八〇ページ以上という、新書としては異例に厚いこの本は、その成果だ。
この本のメリットは次の二点にある。第一、アメリカ軍需産業の歴史と現状をめぐる情報を網羅的に取り上げ、取り合えずこれを読めば大抵のことはわかるようにしたこと。この本によれば、代表的な政治家、高給官僚、軍人、学者、そして実業家と軍需産業との間には密接な関係があった。これをもって「人材の流動化に関する合衆国の優れたメカニズムの成果「と見るか「一部エリートが排他的な特権集団(エスタブリッシュメント)を作り上げてる証拠」と見るかは人によって違うだろうけど、いずれにせよ、こんな幅広い調査をするためには膨大な労力が必要だったに違いない。
第二、地域紛争が続く原因について、一つの一貫した見方を示したこと。つまり、今や合衆国の軍需産業は巨大な雇用先であり、国防を予算を増やすために活発な圧力活動を展開する。地域紛争はこの産業を維持するための手段になった。実際、過去の歴史を見てみると、失業率が上昇すると戦争が起き、戦争が終わると失業率が上昇することがわかる。つまり「失業率と戦争規模と軍事予算とGNPは、数学的に公式を立てられる正確な四次元の関数」(一七〇ページ)なのだ。そして、必要とあらば、軍需産業は外交政策を無視するし、嘘はつくし、武器や兵器を輸出する。それが経済の論理なのだ。
軍需産業を批判する広瀬さんの気持ちはわかる。この本に込められた労力もわかる。でも、残念だけど、読後の印象は満足できるものじゃない。情報が詰め込まれすぎてるから議論が散漫だし、個々の論点の突っ込みが不足する。軍需産業は悪だって前提から出発するせいか、紛争や戦争の原因を安易に軍需産業に求める。そして、そこで用いられてるのは、ほとんどが状況証拠にすぎない。もしかすると広瀬さんは直接証拠を持ってるのかもしれないけど、少なくともこの本を読んだだけじゃわからない。人脈の背後には本当に利害の癒着があるのか、軍需産業は本当に地域紛争の引き金を弾いたのか、しっかりした証拠を示してほしい。そうじゃなきゃ議論も消化不良だし、読者のほうも消化不良になってしまうだろう。[小田中直樹]
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2006/01/07
頭を仕事モードに戻すために読んだ本。
アメリカの軍需産業と政治家、軍、CIA、NASAとの結びつき、癒着の歴史が書かれている。
この論調を全て信じるわけではないけれど、興味深かった。
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アメリカの軍需産業を詳しく書かれた本。アメリカを動かす政治家達と軍事産業の繋がりを事細かく書かれている。しかし、本として読むと、どうも読みにくい。というのは情報量が多すぎる。それは自分の頭が悪いというのもあるだろうが、話がごちゃごちゃしすぎで、論点がわかりにくい。あと、Quotationがないのも気になる。独自のリサーチで書かれたのだろうが、読み手からすると非常に判り難く、相関関係を読み取れない。もっとページ数を増やすか、シリーズにして書かれると、判り易くなるのでは、と思ってみたり。表面的な事実を理解するにはいいのではないだろうか。何回も読み直してみます。
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ベルリンの壁が崩壊し、東西対立の構図が消滅するとともに、アメリカの軍需産業は大統合に向かった。本書は、三〇兆円もの膨大な国防予算を背景に、各企業がますますその経営を合理化していった謎を解き明かす。九九年のNATO軍によるユーゴ空爆などの地域紛争は、従来、民族対立によるものと理解されてきたが、そこに常に介在していたアメリカ製兵器の持つ意味について言及されることはなかった。膨大な資料を分析することによって、政治家、軍との結びつきから、CIA、NASAとの連携まで、アメリカの軍需産業の巨大な姿が浮かび上がってくる。この危険なビジネスが世界情勢を左右する、そのメカニズムとは何なのか。
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[ 内容 ]
ベルリンの壁が崩壊し、東西対立の構図が消滅するとともに、アメリカの軍需産業は大統合に向かった。
本書は、三〇兆円もの膨大な国防予算を背景に、各企業がますますその経営を合理化していった謎を解き明かす。
九九年のNATO軍によるユーゴ空爆などの地域紛争は、従来、民族対立によるものと理解されてきたが、そこに常に介在していたアメリカ製兵器の持つ意味について言及されることはなかった。
膨大な資料を分析することによって、政治家、軍との結びつきから、CIA、NASAとの連携まで、アメリカの軍需産業の巨大な姿が浮かび上がってくる。
この危険なビジネスが世界情勢を左右する、そのメカニズムとは何なのか。
[ 目次 ]
序章 不思議な国アメリカ
第1章 ペンタゴン受注軍需産業のランキング
第2章 軍閥のホワイトハウス・コネクション
第3章 日本の防衛産業を育てた太平洋戦略
第4章 二〇世紀の戦争百年史
第5章 CIAとFBIと諜報組織の成り立ち
第6章 NASAと宇宙衛星産業
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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軍需産業の起こりは独立戦争にさかのぼったり、ボーイングはライト兄弟にさかのぼることができたり。アメリカ軍需産業をざっとさかのぼるのには面白い本。アメリカでのイノベーションが軍需産業や石油産業に取り込まれる様や、軍需産業次第でアメリカの失業率が変わるという話は面白かった。第二次世界大戦以降でも続いていた白人以外の人間の価値は低く、すぐに金儲けの道具とされた歴史があったことは残念であるが、戦争が最も儲かるビジネスではなく、金融がそれ以上に儲かる商売となったことで人の血が流れなくなったことは良かったことである。国家と軍需産業は一枚岩ではなく、お互いに協力し合うところもあるが、結局はお互い欲の皮が突っ張っている者でしかない。が構造は単純ではない。ことが分かった。事実が書かれていることだろうと思うが、それぞれの事実の関わり合いは、陰謀論が出てきたり、日本が戦前は「封建国家」であり戦後民主主義がやってきたという記述でかなり冷め、信憑性を疑ってしまう。欧米が利権奪取のため東ティモールの独立を支援していたという視点が面白かっただけに残念である。
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『筆者はそのような日本という国家から押しつけられる国籍を拒否し、一介の生物として以下に筆をすすめる。』(p108より抜粋)
広瀬隆氏の本を読むのはこれが初めてだ。
この一文が唐突に出てきた時に、あまりにも香ばしいので何かの間違いかと思い、前後を何度か読みなおした。
そして一発でファンに成ったので以後何冊か読ませていただいた。
どういう人生を送ってそんな考え方をするようになったのか分からないし、全く共感できないが、それはそれで傍から見る分には面白い。
上の一文以外は『一介の生物』として筆を進められているようで割と冷静に書かれている。
内容としては、アメリカの軍事産業の離合集散が書かれているので、良い勉強になる。
ただ、五十年以上のレンジの軍事予算のグラフを物価変動を反映せずに載せて、どうだすごい伸びだろう、とやっているのはどうかと思う。
同氏著の『二酸化炭素温暖化説の崩壊』では温暖化のグラフについて、印象操作だ捏造だと、あんなに文句言ってたのに、自分がするというのはちょっとピュアじゃない。
完全におかしくなって陰謀論を大真面目に語る本や、本当は分かっているのに悪意が有ったり営利目的でわざとねじ曲げられたことが書かれた本はたくさんある。
純粋な強迫観念から世の中の不正や恐怖を独自のアンテナで感じ取って、膨大な資料を調べ、文章として世に出すという、絶妙なバランスを崩さずに書かれているからこそ、この本は面白いのです。
ただ香ばしいだけの本はたくさんありますからね。
それにしてもアメリカの巨大企業は天下りどころの騒ぎではない。
有力者やその妻がとっかえひっかえ節操もなくあちこちの重役を渡り歩いたり複業しているのに驚き呆れた。
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2001年刊行。米国軍産複合体。特に米国のみならず、世界各国に対して武器を売却するための手法に注目。