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紙の本
吉行淳之介の秘話が満載
2001/06/08 18:17
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投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は『別冊文春』に18回にわたって連載され、その後、大幅加筆、再構成したと「あとがき」にある。内容は吉行淳之介との出会いから、吉行が病没するまでの逸話の断片集、一種の「おのろけ話集」でもある。宮城まり子は1927年、東京生まれ。1955年、「ガード下の靴みがき」が大ヒット、紅白歌合戦出場8回など、人気歌手兼役者として大活躍した人である。二人が出会ったのはそんな1957年のこと。女性誌の座談会「ファニーフェイス時代」で、秋山庄太郎、吉行淳之介と話をしたことに始まる。それから間もなく、銀座の映画館でルネ・クレール監督の映画『リラの門』を見終わると、吉行淳之介も一人で来ていたりなど、偶然が何度か重なり、付き合いが始まり、やがて吉行は妻子を捨てて宮城まり子と同棲をすることになる。宮城まり子は文学少女で、淳之介に初めて会った頃、一番好きな作家は梶井基次郎と島尾敏雄。全集は梶井の他に、牧野信一、萩原朔太郎、中原中也、立原道造、佐藤春夫などを持っていたが、淳之介の小説は『星の降る夜の物語』『驟雨』『漂う部屋』くらいしか読んでいなかった。1970年代、文芸誌『海』の編集者だったぼくは、吉行淳之介というと「原稿を書かぬ/書けぬ人」との印象が強かったが、本書を読むと「娼婦の部屋」「蚤を飼う男」「寝台の部屋」(1958年)、「人ちがい」「鳥獣虫魚」「すれすれ」(『週刊現代』連載開始)、「八重歯」「青い花」「深夜の散歩」「海沿いの土地で」「手鞠」「未知の人」(1959年)など、あまりの多作ぶりに驚いている。彼女自身もむろん超多忙で、芸術座、梅田コマ劇場、東宝劇場の舞台、東宝映画、連続テレビドラマなどに出演する日々だった。いつだったか神田の小劇場で、島尾敏雄『死の棘』の舞台作品を見た折、終わって内輪のパーティの席上、島尾ミホさんに宮城マリ子さんを紹介された。その時は彼女が島尾ファンとは知らなかったので、「なぜ、ここにいるんだろう」と疑問に思ったが、本書を読んでよく分かった。考えてみれば島尾敏雄と淳之介も親しい間柄だったのだ。宮城まり子は1968年、私財を投じて静岡県に肢体不自由児のための擁護施設「ねむの木学園」を設立、74年には映画『ねむの木の詩』を制作・監督。88年、ヘレン・ケラー教育賞、92年には第1回ペスタロッチ教育賞なども受賞している。この「ねむの木学園」の話を切り出した時、淳之介は「君は10年前からその話をしてるね。設立してもいいが、以下のことを守るように。一、途中でやめると言わない。二、愚痴をこぼさない。三、お金がないと言わない。君を信じて来る人に、途中でヤメタって言うのは大変失礼だからね」と言ったらしい。70年代末期だったか、吉行宅にお邪魔していた時、たまたま、まりこさんが施設の子を何人か自宅に連れてきていた。その時、吉行淳之介が、とてもフレンドリーに彼らと接していた姿、いまなお鮮明に覚えている。その他本書には、高見順と淳之介がオーネット・コールマンが気に入っていた時期もあった逸話など、秘話の満載で面白く読んだ。
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