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紙の本
超一流の将棋エッセイ
2001/06/24 23:04
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投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
「対局日誌」とは『将棋マガジン』発刊と同時に連載が始まり、同誌休刊後は連載の場を『将棋世界』誌上に変えて、現在に至るまで続いている“図面と棋譜入りの将棋エッセイ”のようなものである。
ダイジェスト的に取り上げる将棋の解説が面白いこともさりながら、やはり一番の魅力は「将棋指し」たちの日常、喜怒哀楽の活き活きとした描写である。まるで自分がその場にいるのではないかと錯覚するほどである。
例えば、このような一節。
「瞬間、真部は宙に眼を泳がせた。プロがよくやる読みを確かめるときのクセである。うなずいて△7二同飛と取ったが、確信を持って指しているようには見えなかった。」
将棋を指す人なら情景が手に取るように浮かぶだろう。
主に順位戦を取り上げるので、昇級した人の喜びや勝負将棋に負けた人の悲哀などが印象的だ。例えば森安秀光八段が石田和雄八段にいいところなく敗れた後、こんな描写がある。
「それから二時間ぐらい後、ちょうど米長—谷川戦の取材を終え、一同タクシーを拾おうと明治通りまで出たのと同じころ、森安は、車の往来のはげしい明治通りの中央を、酔ってふらふらと歩いていたそうである。危ないから、独りで飲みなさんな、と言いたいが、しかし、森安の心情胸をうつものがある。勝負師はこうでなければ。」
本書では、昭和61年4月から翌62年3月までの1年間が描かれているわけであるが、この年に羽生善治四段が真価を発揮し、谷川の次の名人と世間や棋士の間で認められたのである。
その羽生が小堀清一九段と対局したときには棋界最年長棋士vs最年少棋士の対戦ということで話題になった。小堀は本書の著者の河口俊彦の師匠であり、あとがきのエピソードを読むとジーンと来るものがある。
著者の河口俊彦は現役の棋士であるが、その文章は棋士の余芸などといったものは遙かに超えている。超一流のエッセイと言って間違いない。
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