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西洋書体の歴史 古典時代からルネサンスへ みんなのレビュー
- スタン・ナイト (著), 高宮 利行 (訳)
- 税込価格:7,150円(65pt)
- 出版社:慶應義塾大学出版会
- 発売日:2001/04/02
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紙の本
印刷術普及以前の西洋書体の美がかいま見られる
2001/06/06 18:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木力 - この投稿者のレビュー一覧を見る
印刷術は、西洋文化を大きく変えた。ルネサンスをもたらした最大の要因は、グーテンベルクらによる活字印刷術の発明だと言っても過言ではないかもしれない。とはいえ、印刷術を発明したのは中国人で、グーテンベルクは、鉛合金活字を発明することによって、印刷術に大きな改良を加えたにすぎないのだが。
印刷術が西洋文化に比類のないインパクトを与えたと言っても、印刷に使われた文字自体は、それまでの手書き文字を模倣したものにすぎなかった。ギリシャ語の書体がそうだったし、またラテン語の書体でも、現在私たちがアルファベットの活字で見ることのできる普通の大文字や小文字、そしてイタリック体もが、古代からルネサンスにかけて使用された手書き文字に由来するものであった。今日では見る機会は少なくなったが、ドイツ語の角張った、いわゆる「亀の甲文字」の起源も中世盛期であるゴシック時代の書体にある。
本書は、古代のギリシャ語やラテン語の碑文の書体から、ルネサンスのイタリック書体まで、西洋の書体のかなり重要なものの写真を集成したものである。ラスティック・キャピタル、ラテン・アンシャルといったかなり古い書体から、荘重なゴシック書体のかずかずを経て、ルネサンスの人文主義者たちが愛用した流麗なカーシブ書体にいたるまで、2000年もの間に、西洋文明がいかに多様な書体が使用されたかが本書を通して鳥瞰できる。
こういった西洋書体に、明朝体、清朝体を始めとする漢字書体の歴史を比較してみるのも一興かもしれない。また、西洋書体をまねて欧文を綴ってみるのも面白いかもしれない。実際、私のプリンストン大学の師は、西欧数学史の専門家だが、美しいカリグラフィーを趣味とする。本書を参照してみると、その書体はどうやら、「ヒューマニスト・カーシブ」に似ている。
このように西洋書体の歴史は面白く、大変奥が深い。18世紀初頭のイタリアの思想家ジャンバッティスタ・ヴィーコは『われらの時代の学問方法について』(ラテン語から邦訳されて『学問の方法』の題で岩波文庫に入っている。私も訳者の一人である)の中で、印刷術がいかに書物の価値を下落させたか、説いている。人は、写本時代のほうが書物を大事にした、というのである。その伝でいうと、現代のIT時代に、私たちははるかにもっと書物(そして人の思想)を大事にしなくなっている。本書に印刷されている書体は、印刷術が手書き文字の価値を下落せしめる以前の貴重なものである。そのように、人の書いた文字と思想がいかに大切にされたかを偲ぶよすがとして本書を眺めて見るのも面白いかもしれない。ともかく、美術書として価値がある。一度、手にとって見られることをお勧めする。 (bk1ブックナビゲーター:佐々木力/東京大学教授 2001.06.07)
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