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紙の本
生物学、生命科学は社会とどう関るべきか
2001/07/02 17:16
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投稿者:彦坂暁 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の岡田節人(ときんど)氏は発生生物学分野の重鎮というべき研究者だが、世間的にはおそらく、科学の研究と発信をユニークな形で結びつけた「生命誌研究館」の館長としての顔の方が有名だろう。本書は生物学の研究者として、そして科学の普及に携わっている者としての体験にもとづき、人間の文化に生命・生物科学がどのように関ってきたのか、そして今後どのように関っていくべきなのか、というテーマを掘り下げた本だ。
科学の世界には、物理学を頂点とし生物学を下位に置く「位階制」が存在していると著者はいう。第1章では、この位階性のもとで20世紀の生物学が辿ってきた変遷の歴史を考察する。物理学をモデルとした還元的研究によって生命の普遍的な理解をめざし、科学の階梯を上ろうとする努力がなされた一方で、生物学の中には、その流れに乗せようがない部分、理論や演繹を受けつけない泥臭い側面もまた、厳として存在してきた。これら二つの側面を抱えたまま、生命・生物科学は巨大に発展してきた。そして現在、生物多様性や内分泌撹乱物質などの新たな問題に対する、生命・生物科学の貢献が社会から要請されている中で、普遍的理解をめざす前者の科学と、収集・調査・網羅を旨とする後者の科学が、新しい形で統合される必要があると著者は主張する。第3章では、この問題をより具体的に、サリドマイド禍の悲劇と、両生類の過剰肢などの形態異常を題材にとって、考察している。1章と3章を続けて読めば、著者のメッセージが明瞭に伝わってくるだろう。
第4章では一転して、科学の教育の問題が論じられる。近年、若者の「理科離れ」が問題になっているが、著者はむしろ大人たちの科学への無関心、嫌悪感こそが最大の危機だと指摘する。世の中には自然——たとえば流星群などの天体現象や野生の動植物など——への興味は広く存在しているのに、それが科学への親しみとは結びついていない現状がある。その一因には、やはり科学の階梯性、つまり生物を語るにはDNAの知識が必須であり、さらには化学の知識が必要で……、というような前提があると著者は見る。もちろん、学校教育の中では、階梯性に基づいたトレーニングも必要である。しかし同時に、無味乾燥な階梯性から解放された、よりソフトな科学教育を、子供だけでなく大人にも提供することが必要なのだと著者は強調している。科学と音楽、科学と美術の融合という生命誌研究館のユニークな試みも、その実践として行われているわけだ。狭い意味の「理科教育」にとどまらない、社会全体にむけた科学の発信が必要で、そのためには科学の表現方法が洗練されねばならないという岡田氏の主張は、傾聴に値する提言だと思う。
生命誌研究館のページ:http://www.jtnet.ad.jp/WWW/JT/Culture/BRH/
まえがき
第一部
I 生命・生物科学の一世紀 ——文化・文明史としての
はじめに
1 生気論の終焉 ——前世紀転換の時代
2 知の「位階制」のなかの生命・生物科学
3 ゲノム中心教義
4 オルガニシズム ——ゲノム教義の外の問題は?
5 人間社会からの招集
II ヒト/人間の科学の“いま”を考察する
1 ヒトの科学の登場とそれへの期待
2 ヒトの科学のなかの今日的テーマの二つ
3 テクノロジーの対象としてのヒト
4 「生物学的」倫理をもとめて
第二部
III 形態の破綻と環境ファクター
はじめに
1 サリドマイドの悲劇の告げたところ
2 蛙のクライシスの告げるところ ——外因も内因も?
第三部
IV 次世代への科学/技術の教育 ——実践的試論
1 まえがきとしての概観
2 市民生活のなかの科学 ——きらわれる科学/技術
3 科学/技術の智からの乖離
4 科学の表現
5 科学を演奏する ——実践的体験の報告
まとめ
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