紙の本
著者の学風の形成が垣間見られる雑文
2003/06/01 14:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮崎市定の著作にたいしては、それなりの期待が有る。これ迄読んだものは、どれも面白く、教えられることも多かった。題名も期待を醸す名前である。しかし、この本は、特に不満が有るという訳では無いが、物足りない。直接東洋史に関する著作では無く、新聞・雑誌への寄稿、全集の解説、随想というか、雑文というようなものである。パリ留学、恩師同僚の話、時事問題への感想、等が収録されており、著者の学風の形成というようなものが、垣間見られる部分も有る。
投稿元:
レビューを見る
古本で購入。
東洋史学の泰斗・宮崎市定が、喜寿の年に出版した随想集『東風西雅』の抄録版。
新聞や雑誌に載せてきたエッセイ・コラムが中心なので、肩肘張らずに読める。
一方で、戦時中に書かれた、見落とされがちな太平洋奴隷貿易の撤廃における日本の果たした役割を掘り起こす文などは、いかにも時勢を感じさせる。こういう、(それを意図したものでないとしても)国威発揚的・戦争協力的な文章をかつて物したことをまるで隠さない学者は気持ちがいい。
たとえば明治大学の木村礎も、自分がかつて軍国教師として振る舞っていたことを一切隠さなかった。人としてのあり方が清々しくていいのだ。
この他、チベット国境問題・中ソの確執・文化大革命・批林批孔などの時事を語る評論も収められているが、その炯眼に驚く。
世界の“今”が歴史という“過去”の蓄積の上にあるということを、改めて知ることができる。
新聞コラムや「読書日録」は、飄々としたユーモアが漂っていておもしろい。
硬軟取り混ぜた宮崎市定が楽しめる1冊。
投稿元:
レビューを見る
非常に多作な宮崎市定氏の随想集。著者の博学ぶりを示すように、話題は非常に多岐にわたる。時代ぶりを反映した文章も中にはあるが、50年近く経過して尚、本質的に現代にも思い当たる指摘が多々あり、興味深い。
投稿元:
レビューを見る
岩波現代文庫
宮崎市定 「東風西雅」
歴史エッセイ。中国史の研究者だけあって、思想は 中国的で 白黒はっきりして 小気味いい。欧米人を真似るより、中国人のように自国文化に執着せよ、日本には固有の文化が育っているというメッセージ。
「古本屋はその町の文化の程度を象徴している」は、なるほどと思う。文化振興のために これからも古本屋で本探ししようと思う
「良い本を読む人たちに金と時間を与えることが何より大事な文化振興策になる」は名言
「日本は戦争に敗けながらも戦争の目的の一部分をはたした〜列強の植民地のなっていた地域が解放されて独立国になり、それらの国と商取引が可能になった」は目から鱗
投稿元:
レビューを見る
著者のエッセイ集である『東風西雅』(岩波書店)から、約三分の二にあたる文章を抄録した本です。
「東と西との交錯」と題されたエッセイでは、著者自身のフランスへの留学経験を振り返りつつ、東洋と西洋ないし日本と西洋との関係について、これまで日本人がどのように考えてきたのかということが論じられています。そのさい、著者が留学の途上で出会った横光利一をはじめ、池辺義象や河上肇といった知識人たちが、ヨーロッパの地でどのように日本人としてのアイデンティティを感じていたのかといったことに触れ、近代日本の西洋観および日本観の特質や変化についての考察が展開されています。
また著者は、ジャーナリズムとは縁が薄いといいつつも、中国史の研究者の観点から、現代の中国が直面しているさまざまな問題について考え、批評をおこなっています。「はしがき」には、「文化大革命に関連したものも二、三あるが、あの当時の日本の言論界の軽薄な追随態度は今思い出しても腹が立つ」と述べており、長いタイム・スパンで中国の歴史を見つめてきた著者の矜持が感じられます。