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紙の本
広いけど、浅すぎ
2001/11/08 10:32
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投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一〇年ほど前、僕は所沢(埼玉県)に住んでた。今のまちに引っ越してからしばらく経って、所沢が「ダイオキシン銀座」って呼ばれてることを知った。昔のいえの近所にあるマンションがテレビに映し出され、土壌のダイオキシン濃度が高いって報道された。そのときは「僕らもダイオキシン銀座に住んでたんだ」って笑って終わったけど、幼い娘がいる今だったら、笑ってもいられなかっただろう。
この本の著者の河野さんは「化学物質はすべて有害」であり、放っておけば「人間を含むすべての生物を蝕み続けるだろう」(二一七〜二一八ページ)って判断して、化学物質が僕らや僕らの子孫の健康に与える影響を紹介した。これは今日を生きる僕ら全てにとって重要な問題だから、関連する情報を広く伝えるのは大切なことだ。それとわかって利用するならまだいい(というか仕方がない)けど、何も知らずに利用するのは怖いことだし。しかもこの本は、新書っていう狭いスペースのなかで、新生児の死亡原因や癌研究のあり方から始まって、大気汚染、電磁波、煙草、シックハウス症候群、放射能、水質汚染、食品に残留する農薬や抗生物質、輸入農作物とポスト・ハーベスト農薬、遺伝子操作作物、薬の副作用まで、膨大な領域をカバーする。しかも、農作物の輸入拡大に伴って残留農薬基準が甘くなった、遺伝子操作作物は安全試験なしで承認される、生物多様性条約(二〇〇一年)は遺伝子操作作物を拒否する権利を認めた、といった大切な指摘がある。耳学問するにはお得な一冊かもしれない。
でも、ちょっとよく読むと、この本の問題点がみえてくる。二点だけ指摘しておこう。第一、説明する際の理屈がなってない。たとえば、〇歳児の死亡原因の六〇%を先天性奇形と呼吸器・循環器障害と乳幼児突然死症候群で占めるのは「異常」(一二ページ)だとか、〇歳児の死亡率が〇・四%なのは母胎の環境が劣悪だとかいうけど、ほかの年代や国のデータと比較しないで異常とか劣悪とかいうのは無意味だ。地下水に溶けた有機溶剤が先天性奇形の原因になることは疫学的に証明されてるから、先天性奇形は母体が化学物質に汚染されてることを意味してるっていうけど、これは十分条件と必要条件を取り違えてる。農薬散布中のヘリコプターの墜落事故の原因はパイロットの農薬中毒だって噂が表面化しないのは「生産体制の無言の圧力」(三六ページ)のせいだっていうけど、そもそも「無言の圧力」の存在をどうやって証明するんだろうか。新利根町(茨城県)のゴミ焼却場の風下地区の住民の死亡率に占める癌の割合が高いことからゴミ焼却場で発生するダイオキシンがガンを引き起こすって結論するけど、他の要因を考えてない。
第二、なぜか含みを持たせた曖昧な言い回しが多い。たとえば、ゴミ焼却場が多い地域産の牛乳はダイオキシンに汚染されてることは「卵や牛乳が多くのアレルギー患者を作っている現状と響き合う」(四八ページ)っていうけど、どう響き合うかわからないし「響き合う」って言葉の意味もわからない。「超微粒子の人体への影響はまだ充分に解明されていない」(六四ページ)段階で原因不明の間質性肺炎に「自動車が排気する優勢微粒子の影を見ることもできる」(六三ページ)っていうけど、そういえる理由がわからないし「影を見ることもできる」って言葉の意味もわからない。アルツハイマー患者の脳からアルミニウムがみつかることから、アルミニウムがアルツハイマー病の原因だという「可能性が充分考えられる」(一〇六ページ)っていうのも、曖昧模糊とした言い回しだ。
化学物質汚染は大切な問題だし、僕は河野さんの立場そのものには共感する。だからこそ誤解されたりあげ足を取られたりするようなラフな議論はしてほしくない。[小田中直樹]
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