紙の本
生命進化としての遺伝子操作
2001/10/19 16:27
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投稿者:神楽坂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
芸術、思想、学問。それらは脳の産物でありながら、遺伝子のように自己複製と増殖の機能を持っている。人間がいなくなり、コンピュータだけで社会が運営されていくというのは古典的SFにありがちなテーマだが、ミームの本質を表している。生命体の知性は常に遺伝子に従属したものだったが、人工知能があれば遺伝子無しでミームの増殖が可能となる。そして、ミーム(知性)が遺伝子操作を始めた現代、その立場は入れ替わり、ミームが遺伝子を支配する神になりつつあるという。遺伝子の世界でも、太古の昔DNAがRNAに取って代わったことで、生命の世界は爆発的に拡大した。それと同等の生命進化が今ミームによって起こされようとしている。生物学者の著者の感覚は、SF作家とはかなり違っているようだ。
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情報をウイルスに例え、その拡がり方、文明・文化・人間に対する影響を考察した本。
ユニークで、かつ重要な視点を示唆してくれる。
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本当にすごい影響を受けたと思います。
物理的ななにかでなくて、文化的な遺伝子という「ミーム」の考え方にどんなに励まされたことか。
いろいろなもののあり方に疑問がある人は、一つの考え方としてこの受け止め方を知っておくといいと思います。
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人間の文化現象に進化論の考え方を適用したミーム論の立場から、教育・環境・民族対立などの諸問題がどのように見えてくるのかを論じた本です。
人間の文化は、他の動物と比較して圧倒的に多くの情報をもっており、文化的な適応現象が遺伝的にも適応度が高いとは限らないような事態さえもが生じています。このことをもって著者は、人類の誕生によってミームは遺伝子システムから独立した進化系としての地位を確立したのだと考えます。
教育とは、ミームを次世代に伝えるシステムにほかなりません。進化論は、このシステムが維持されるには、変異と選択のバランスが重要だということを教えています。単一種類のミームだけが生存するという状態、つまり強力な思想統制や洗脳がおこなわれる社会は脆弱だと著者はいいます
また著者は、環境問題を遺伝子システムと脳システムの相克という視点からとらえなおすことができるという考えを提出しています。人間の脳が生み出す文化というシステムは、遺伝子システムに比べて圧倒的に変化の速度が速く、生物が時間をかけて適応していった環境を、文化はあっという間につくり変えてしまう。この速度の圧倒的な差異が、環境問題の根本にあると著者は述べています。
さらに著者は、民族や人種のあいだに起こる差別や対立を克服するためには、「仲間」と「よそ者」とのあいだに線を引こうとするミームの活動をどのように抑えればよいのかという問いに帰着するといい、ユーゴ紛争に至るまでの経緯を簡潔にたどりながら、自分たちとは違う特徴を持った人間に対する差別を乗り越えて、ともに「仲間」だと思えるようなミームをつくり出そうとする努力が存在したという事実に、未来への希望を見いだそうとしています。