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<娘の自殺を期に、英国から戦後の長崎に思いをはせる―そこには生活に打ちひしがれる母娘がいた・・・。>
カズオ・イシグロの長編デビュー作にして、王立文学協会賞。
戦争、原爆、敗戦、民主化・・・
そういった大きな変化は人自身も変化させるもので、(訳者あとがき曰く、「価値のパラダイム」)
イシグロ作品の多くのキャラクターはその変化に苦しむ。
そしてその中でも、光を求め歩んでいくのはこの本でも一貫している。
今作の主人公も娘の自殺を期に戦後の長崎、高度成長期の長崎を想起する。
このように主人公が過去を思い出したのは、
過去の義父や母娘の姿を見ていたにも関わらず、
自分がした選択に悩んでいたから。
イシグロ自身が、作中で「記憶はうつろい易いもの」と述べているように
過去の愉快な記憶の中に自身の娘の名前をいれたところに
主人公の深い後悔を想った。
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淡々としていて人によっては読みにくいかも。個人的には漱石の「こころ」を読むようなスタンスで読破。主人公の一人称で、過去回想と現在と行ったり来たりするし、過去の記憶が曖昧で同じような情景が二度出てきたりと、読みながら大分混乱した。が、いい意味で暗くて気持ちの悪い読後感。正直最後まで、色々がハッキリしないので人によってはただただ退屈かも。解説がフォローしてくれてるので、そこでやっと話の整理が出来る。この作家の本を何冊か読んでからトライした方が読みやすいかも。
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長編デビュー作ということで、昨今の作品ほどの圧倒的な完成度と壮大さを求めるのはいささか残酷な気がするけれど、書いているものはブレない、芯がまっすぐ通っていて、カズオ・イシグロは本当に信頼のおける小説家だと改めて思う。
この本も、浮世の画家も、戦争前後の時代変化に翻弄される市民が主人公だけれども、この既成の価値観というものの軟弱さに比べそれに向き合ってゆくことのできる人間のたくましさよ、とため息が出る。正解はこうです、と書いてあるのではなくて人間はこんなかんじですかね?こんな弱さを持った人が多いですよね?と控えめに書く。そのカズオ・イシグロの世界から私たちは多くのものを読みとることができるのであり、その世界に魅了されてしまうのだとおもった。
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カズオ・イシグロの長編デビュー作。1年前、読み始めたのだが、50ページほど進んだところで、止まってしまった。解説の池澤夏樹氏は訳者を誉めていたが、私個人はこの訳文に馴染めなかった。
カズオ・イシグロは長崎県生まれの日本人。5歳のときに父親の仕事の都合で英国に渡った。
長編デビュー作の舞台に長崎を選んだのかは詳しい事情は分からないが、長い英国暮らしの中で日本人以上に日本人であることを意識してきたということはあろうから、ごく自然な流れであったのだろう。
主人公は日本人の夫との間に長女、さらに英国人と再婚してハーフの次女を持ち、今は英国で暮らしている悦子。その悦子が長女の自殺をきっかけに、戦後間もない長崎での暮らしを思い出す、という仕立てになっている。
当時、日本人の夫との間にもうけた長女を身ごもり、地道に暮らしていた悦子の前には、米国暮らしに憧れ、移住を考えている佐知子という女性がいる。悦子は佐知子を援助しながらも、なんとなく違和感を持って見つめる。
現在と過去をクロスオーバーさせ、ヒロインの心の動きや変化を見せようという仕掛けは面白いと思ったが、会話が冗漫で、言葉の繰り返しが退屈に思えた。
それは、訳への違和感かもしれない。あるいは、標準語(東京弁)で会話する「嘘くささ」に拒絶反応を覚えてしまったかもしれない。
この物語の世界観はあくまでもカズオ・イシグロが想像した「NAGASAKI」と見て、読んだほうが、この物語の世界を楽しめたのかも。
英語圏で英国人が読むのと、日本語訳で日本人が読むのでは、違った印象を持つ作品かもしれない。個人的には、長崎在住の方はこの物語をどう読んだのかが気になる。
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3作目にして、Ishiguro作品を初めて日本語約で読んだ。(原題は"A Pale View of Hills") 小野寺健氏による日本語訳が、もとから日本語で書かれたものであるかと錯覚させるほど素晴らしかった。特に会話文の部分など。 この小野寺氏は解説の中でIshiguro氏の作品を「薄明」と表現している。 虚無感みたいなものが、暗くなりすぎずに、しかしどうにも逃れられない薄霧のように読後感として残るのが特徴ではないかと思う。 誰もが心のどこかに抱く不安定感がこれに共鳴せざるを得ないのだ。 また会話文が見事で、すべてを語らせていないのに、裏の心情までが伝わってくる。5歳から英国で暮らしているそうだが、俳人のような趣も感じさせる。
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すごくうまい。まさに私の考える文学。感動ではなく、感銘を受けた。主人公の心の揺れ、移り変わり。英語の本題"A Pale View of Hills"がうますぎると思った。そう、すごくPale(薄暗い)なのである。感動以外で5つ星をつけた初めての文学ではないだろうか。
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1954年長崎生まれ、イギリス育ちの筆者による終戦直後の長崎の物語。
そういえばこういうほわっとはじまって特に劇的な盛り上がりもなく(それを描くのが主眼ではない)ほわっと終わる話は久しぶりに読んだ。
池澤夏樹の解説がよかった。
「人間は互いに了解不可能である」という前提から発しながらも、ずれた会話をプロットの中心に据え、人間のありようを書き出しているという指摘。
その会話に登場人物の属性をうまく表現した訳。
さらにその人間性が原文でも失われておらず、それによって日本女を描くのではなくそれを超えた普遍的な人間の心の動きを書いているという指摘。
そういうものだと考えながら読むと、もっと面白く読めたのだろう。
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戦後間もない長崎で、アメリカ男に裏切られながらも未来を託す女と、その娘との出会い。主人公の悦子は、イギリスで、長女を自殺で亡くすが、長崎での思いで(母娘との短い出会いや元夫や義父と過ごした夏)を不思議に思い出される。
ただ、悦子と元夫の離婚や何故渡英したかなど、よくわからない部分があった。
村上春樹と感覚が似ている、と思った。
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舞台は英国と戦後まもない長崎で、タイトルの通り、光を求め生きていく人々をきれいに描かれています。しかし、必ず幸せを掴めるわけではなく、求める光は淡く微々たるもので、現実を感じずにはいられません。
会話文が非常に特徴的で、私としては登場人物たちが狂ったと焦燥感にかられました。普通の会話だと全くずれているのですが、話は不思議と理解でき、ちゃんとした会話なんだと気づかされます。おまけに、これは文学的な表現だそうで、私は見事に嵌ってしまったわけですね(笑)。
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カズオ・イシグロの最初の長編小説。主人公、悦子の回想のスタイルで語られる。ただし、その構造はやや複雑で、イギリスに暮らす現在と、長崎にいた過去とが、その中間部を欠いたままで語られている。この点にこそ、この作品の一番の特質があるのだが、その一方で読者の側には幾分かのフラストレーションが残されることになる。佐知子と万里子のその後も、景子に関わる経緯も不明なままなのだ。
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著者の長編第一作.
後年の作品ほど語りに円熟はなくて,物語自体も十分に具象的ではない.なにか薄暗い不安感が漂った雰囲気のなかで,会話を中心に話を進めていくスタイルはもうすでにここにある.
テーマは家族の断絶だろう.時代の価値観の違いに引き裂かれていく親子.どこか距離感のある幸せかわからない夫婦.なんだか身につまされることが多くて,ページがなかなかすすまなかった.
佐和子親子のような人物を書かせると,不思議な実在感を伴って.これほどうまい作家はいないと思う.
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戦後の閉塞感や薄気味悪い描写が印象的だった、特に会話文。あんなに上辺だけの会話が頻発に続けられるところに人々の心の闇が表れているのだと思った。
女の子は結局どうなってしまったのか。
はっきり書かれない分落ち着かない。
不安感が残った。
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前回読んだ日の名残が気に入ったので読んでみた
処女作らしいが、落ち着いたゆったりとした描写で、細部の書き込みが日の名残と比べるといまひとつと感じるけど、その代わりに、常に死がそこにあるような妙な緊張感が全編に流れていて、これはこれで読ませる
回想形式で、ある種のミステリのように読めるのは他の作品と同じ
翻訳モノ特有の日本語のつながりの悪さは感じず、これは翻訳者の力なのか作者のオリジナル英文の特徴なのかわからないけど、とにかく読みやすい
馥郁とした文学の香りを楽しみながら、激しさを内在した静けさを楽しめた
傑作と評するのはためらわれるが、楽しく読めて十分満足だ
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期待値がMAXだったので、ちょっとなー。
処女長編だそうで、それもあってか、
盛り込み過ぎ!!
気になる要素があたら蒔かれてるのに、
解決しないことがありすぎて、
それで収まりがつけばいいけど、単に書き込みが足りない感じ。
不満不満!!
倍の長さでリライトして欲しい~
でも寡作だから・・・・
そんな時間あったら新作書いて欲しい~
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カズオ・イシグロの作品を読むのは、『日の名残り』『わたしを離さないで』に続いて3冊目。本作は彼の長編デビュー作に当たる。イシグロは5歳の時にイギリスに移住したため日本語はほとんど話せないらしいが、本作の主な舞台は長崎で、登場人物も日本人だ。したがって、そこに描かれた日本と日本人は、日本人が描いた日本とは微妙な違いがあって、そこがこそばゆくも面白い。
問題は内容で、一筋縄ではいかない。何が起きているのかは全て分かる。しかしいくつもの重大な謎は最後まで説明されないままで、そもそも物語られていることのどこまでが真実なのかという疑問が湧いてくる。とりわけ気になるのは、終盤のケーブルカーに関する話だ。もしこのケーブルカーが中盤に描かれているものと同じだとすると、明らかな矛盾が生じてくる。その矛盾と、説明されない謎を解決する手段はただ一つ。実は「佐知子」とは「悦子」の真実の姿であり、この物語の大部分が、悦子による捏造された記憶のようなものではないかという解釈だ。そうなれば不可解なミッシングピースの多くが埋まってくる。だが厳密にそう解釈できるだけの材料はない。むしろ厳密な解釈が出来ない、淡い揺らぎの中にこそ、この作品の魅力の本質があるように思える。
『日の名残り』『わたしを離さないで』という2大傑作には及ばないが、その2作にはないミステリアスな魅力に満ちていて、これはこれで忘れがたい魅力を持っている。やはりカズオ・イシグロはぽちぽちと全作品制覇を目指すとするか。