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紙の本
人格の表と裏の恐怖
2002/07/30 20:57
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和音 - この投稿者のレビュー一覧を見る
春休みが終わり小学生5年生になったマサオ。そして、担任の先生は大学を卒業したばかりの新任の羽田先生。新しいクラスでの係を決める時に嘘をついてしまったマサオはそれから羽田先生に嫌われてしまう。他の子が宿題を忘れたりしても、掃除の時も特に悪いことをしていなくても自分だけ叱られるようになって、全部、マサオのせいにするようになります。そして、クラスのみんなもマサオを無視したりといじめるように・・・
マサオはだんだんと自分がいじめられてしまう事をなんとも思わなく当然のように考えてしまいます。このマサオが感じたり思いこんでしまうところは、読んでいて痛いほどつらかったです。クラスのみんなから不当な扱いを受けても、みんなを本当はいい奴なんだと思うマサオ君は、なんて優しい気持ちを持った子なんだろうと思いました。
羽田先生の表と裏の性格を使い分け裏の性格の方がどんどんヒートアップしてくる所は 人間の狂った部分が全面に押し出され読んでいて怖かったです。マサオの裏の性格の「アオ」とセンセイの裏の性格。人間みんなが強弱はあってもこのような性格を持ち合わせているのではないか?と考えずにはいられませんでした。
紙の本
息苦しくなる作品。
2002/06/20 23:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:狩野涼子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
何度も読むのを止めたくなった。
息が苦しくなって、涙が出てきた。
友人も「イタイ。」と一言しか感想をくれなかった。
でも、いい作品だと思った。
学校という閉鎖空間だから、起こるコトが書かれている作品。
実際に、あんな先生が居たから。
実際に、ああいった級友が居たから。
実際に、さらりと流してしまった自分が居たから。
なんとなくで、流れてしまった学校での時間を思い出すから、息苦しくなる作品。
そして、それでも、最後まで読ませてしまうから、乙一先生は、すごい作家さんだな、と思った。
紙の本
ビルドゥングスロマンとして
2012/10/13 21:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hit4papa - この投稿者のレビュー一覧を見る
小学校5年生に進級したマサオは、ちょっと太めの運動オンチ。勉強は中より少しましぐらいだが、大人しくクラスの中では目立たない存在だ。たわいのない話で盛り上がる仲の良い友達がいて、それなりに楽しく過ごしているという、どこにでもいる少年。
マサオの担任の羽田先生は、学校を出たばかりのスポーツマン。さわやかで快活な羽田先生に、4月早々から、マサオやクラスの皆、お母さんたちも信頼を寄せている。
マサオはクラス委員の選考の際、ちょっとした行き違いで、皆から浮いてしまう。ちょうどその頃、羽田先生も、生徒たちから指導のあり方に対して不満の声があがり始めていた。羽田先生は、生徒たちの非難を逸らすため、マサオを徹底的に叱りつけるようになる。全てをマサオのせいにして、クラスの皆に宿題を課したり、居残りをさせたりするのだ。マサオがちゃんとしないから、という理由で。クラスの目はマサオにのみ向けられ、すべての不都合の原因がマサオであるかように振舞われる。生贄の羊だ。
私は、このくだりを読んでいて、総毛立ってしまった。先生という小学生には絶対的な権力者が、ひとりの引っ込み思案の少年を、逃げ道のない孤独に叩き込んでいく。羽田先生は、マサオが上手くできることでは、皆を見て蔑みの笑いを浮かべていたと攻撃する。徐々に、仲の良い友達は去り、クラスの子は冷たい視線を浴びせるようになる。いじめとして明確に伝えることができない恐怖。クラス全体が、ただ、そういう雰囲気になっているだけだ。絶望から自分をクラスの最下層の人間と納得し始めるマサオ。羽田先生から”悪い子だ”と繰り返し宣言させられる。マサオの悲しみが、息苦しさが、私の気持ちを波立たせる。怒りに似た感情で胸がいっぱいになってしまうのだ。
そんなマサオにだけ見える全身青色で傷だらけ、拘束衣を着た少年”アオ”。マサオの屈辱を見守るように現れては消えるアオは、口が縫い付けられているので話をすることができない。自分の運命を諦めかけたマサオ。マサオへもの言いたげなアオ。マサオへの肉体的ないじめが加えられようとしたとき、アオはマサオとひとつになる。そして、アオは、ようやく口を開く。「先生を殺せ」と。 ・・・
マサオはアオの導くまま行動を開始するのだが、はたしてどうなるだろうか。そして、アオとは何もなのか。私はビルデゥングスロマンが大好きで、読了後はいつも甘酸っぱい感傷に浸ってしまう。本作品もビルデゥングスロマンといってよいだろう。ただし、劇薬入りのビルディングスロマンだ。読了後には、甘酸っぱさも、清清しさも残らない。後味がけっして悪いわではないが、目の覚めるような痛烈さで、気持ちがざわめいたままだ。