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紙の本
初めて名前を聞く人たちばっかり出てくる本がどうしてこんなに面白いんだろう。
2001/11/28 22:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:服部滋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやあ、面白い面白い。この新刊ブックレビューでは「面白い」というコトバをなるべく使わないで面白さが伝わるように書くことを心掛けているのだけれど、今回は降参。だって面白いんだもん。ほとんど初めて名前を聞く人たちばっかり出てくる本がどうしてこんなに面白いんだろう。不思議だ。
本書は、目録で商いをする近代詩歌専門の古本屋さん<石神井書林>の店主の日記で、明治から昭和初期あたりの、あまり人に知られない詩人や作家の話題が中心になっている。たとえば『ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム』、略してGGPGという雑誌の名前がなんども出てくる。これは大正13年に発行された「若き日の北園克衛や稲垣足穂らが活躍したアヴァンギャルド雑誌」で、野川隆という人が編集をやっていたそうだ。
野川が「生前に残した唯一の著作、題して『九篇詩集』。これもまだ古書市場に姿を現したことはない」と著者は書く(36頁)。ところが149頁では「友人のきさらぎ文庫から古書目録が届いている。パラパラ見ていて目が釘づけになった」。そう、『九篇詩集』が出てたんですね。売価は50万円。高いのか安いのかぼくには見当もつかないけれど、著者が電話をすると「もう売れちゃった」という返事。「電話口の声に気が抜けて、少しホッともする」と書いてるから、うーむ、けっこう微妙な値段だったんでしょうね。足穂によると野川は「初代の江戸川乱歩だった」という(!)。
タルホといえば、古書展で見つけた『意匠』という昭和17年の雑誌にも足穂が出ていて、読者の通信欄に殿山泰司がこんなことを書いているという。
「セレナードは窓辺で聞くもので、そして稲垣足穂の『蘆』はあのやわらかい月の光で読むべきでありませう」
著者は「世の中もう決戦だという時世に、セレナードだの足穂は月の光でだのと、やはり殿山泰司は素敵だ」と感想をもらす。こんなステキなエピソードがこの本にはそれこそ満天の星のように散りばめられている。ふ〜んとかへえ〜とかあれあれとか嘆息しながらあっというまに読み終えて、これほど残りの頁が少なくなるのを寂しく思った本は久しぶりだ。それにつけても、自分がいかにモノを知らないかに呆然とする。いっそ爽快なくらい無知だ。
伊庭孝遺稿集『雨安居荘雑筆』(昭和12年)という本が出てくる。伊庭は浅草オペラの演出家で、父親は「星亨を刺殺した明治のテロリスト」だったという。本には父に関する記述はないが「着流しでショパンを弾いたという伝説の天才ピアニスト澤田柳吉への追悼文が入っている」。へえ〜。モーレツに興味がわく。
16歳で詩集『孟夏飛霜』(大正11年)を出し、日夏耿之介に「日本のランボー」といわしめた天才詩人・平井功。かれの未刊の詩集『驕子綺唱』の原稿のコピーがあるという(53頁)。日夏の序文も付いている。古書展とはそんなものも現れる「つくづく不思議な空間である」。ほんとにそうだ。平井は游牧印書局という書肆を起こしたが25歳で獄中で夭折、兄が正岡容(いるる)だそうだ。これも、へえ〜、のクチ。この本の最後に「平井功の原稿のコピー、あれ本にしましょうよ」という手紙が届く、とある。なればいいなあ、と思う。
こうして書き抜いているとキリがない。201〜202頁のエピソードには感動。ちょっとした短篇小説の味わい。著者が月の輪書林の古書目録にふれて書いた感想は、そっくりそのまま本書にもあてはまる。「何があるかといえば興奮がある。古書の世界が持つ沸騰する面白さがある」。最後に、47頁の尾佐竹猛のルビは「たけき」でしょうね。校正ミスにちがいないが、編集の苦労がしのばれる本だ。 (bk1ブックナビゲーター:服部滋/編集者 2001.11.29)
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